繰り返す読み合せの重要性
Q:演技指導についてお聞かせください。前作の『ハッピーアワー』では、ほぼ演技経験のない素人の方が主演でしたが、今回は東出さんをはじめ皆さんプロの役者さんばかりです。前作と今作で演出的なアプローチに違いはあったのでしょうか。
濱口:基本的なところでは前作も今作も変わっていません。脚本を何度も読み合せしてから現場に臨むという、基本的な演出のアプローチは変わらないのですが、そこにかけられる時間は全然違いました。
『ハッピーアワー』の場合だと、撮影の前に何ヶ月かワークショップがあって、読み合せも何日も行ってから現場に入ったりと、映画自体の規模は小さいながらも、ある種贅沢な時間の使い方ができました。一方今回は、役者の皆さんは大変忙しい方たちでもあり、映画の撮影期間も1カ月と限られていました。ただそのときに、役者の皆さんの経験に頼ったところは結構あったのかなと思っています。そういう経験値のおかげで、この期間でも撮れたんだろうなと。
Q:東出さんの一人二役はかなり難しいと思われますが、見事でした。
濱口:そう見えてくれたのはとてもありがたいです。もともと、この原作を映画化しようっていうときに、東出さんは最初に浮かんだ方だったんです。
Q:この映画がちゃんと成立するには、東出さん演じる「麦」によるところも大きいのかなと思いました。
濱口:そうですね。
Q:そういう意味でも、東出さんは二役をちゃんと成立させてるなと。
濱口:東出さんの二役は試写での評判もとても良いんです。東出昌大だねっていうことではなく、麦として、亮平として、ちゃんとそれぞれの役で見ていただいているっていうことは、とてもありがたいなと。これはもう、東出さんのお力のおかげだなと思います。
Q:東出さんの相手役を務めた唐田さんですが、撮影時はまだ10代だったそうですね。
濱口:そうです。19歳でした。
Q:19歳だったっていうのを知って驚きました。映画では、成熟した大人の女性にしか見えないですよね。
濱口:ありがとうございます。
Q:唐田さんは、キャストの中では演技経験が浅い方だと思いますが、読み合わせなどは他の方よりも時間をかけられたんでしょうか。
濱口:クランクインの前に1週間ぐらいリハーサルの時間をいただいて、東出さんや唐田さんを中心に、ひたすら読み合せをやりました。それがとても良く作用してくれたと思います。演技経験があまりない唐田さんと、演技経験がある周りの人たちとの、その組み合わせが化学反応としては良かったんじゃないかなと。お互いに何か引き出すものがあったんだと思います。