マイケル・ガフとクリストファー・リー、『吸血鬼ドラキュラ』から『アリス・イン・ワンダーランド』まで
まずはマイケル・ガフ。バートンのメジャーデビュー作『バットマン』での執事アルフレッド役は特に有名。続く『バットマン・リターンズ』でも続投し、バートンからジョエル・シュマッカーへとメガホンが引き継がれたその後の二作でも、闇の騎士を支える執事を演じた。
ヒーローというよりは怪人に近いバットマンをはじめ、彼が対峙するジョーカーやペンギン、キャットウーマンといった怪物たちに囲まれながらも、アルフレッドは至って冷静な普通の人間だ。恐ろしい怪人たちと渡り歩く"普通の人"のイメージは、ガフが過去に演じたキャラクターに原点がある。
ハマー・フィルムによる『吸血鬼ドラキュラ』(バートンの生まれた1958年公開!)はドラキュラ伯爵を演じたクリストファー・リーと、ヴァン・ヘルシング教授を演じたピーター・カッシングという黄金コンビの代表作だが、ガフはそんなふたりの超人に挟まれる一般人、アーサー・ホルムウッドを演じた。アーサーはヴァン・ヘルシング教授とともに吸血鬼退治に乗り出すわけだが、どことなくバットマンの助手を務めるアルフレッドと重ならないだろうか。ハマー作品の大ファンであるバートンにとって、吸血鬼と探偵を組み合わせたかのようなバットマンの助手は、お馴染みのロビンではなく、マイケル・ガフでなくてはならなかったのだ。
ドラキュラとしてガフと共演したクリストファー・リーもまた、バートン映画の常連だ。迫力ある悪役を演じてきた彼らしく、バートン作品ではつねに主人公を威圧する恐ろしげな老人を演じている。ちょうどその頃のバートン作品の主人公はだいたいジョニー・デップなので、結果として毎回デップをいじめる怖い役ばかりとなった。『スリーピー・ホロウ』のニューヨーク市長、『チャーリーとチョコレート工場』ではウィリー・ウォンカの歯医者のお父さん、ストップモーション・アニメの『コープス・ブライド』では主人公ヴィクターを威圧する牧師といった感じ。
最後に出演したバートン作品『ダーク・シャドウ』では、デップが演じる吸血鬼に催眠術をかけられる漁師役だった。かつてドラキュラだった彼が吸血鬼の術をかけられるというのもおもしろいが、バートン作品の中でずっといじめてきた相手からとうとう逆襲されるという意味合いもあって可笑しい。
また『アリス・イン・ワンダーランド』では、作者ルイス・キャロルが自己投影したと言われるドードー鳥を演じたガフに対し、リーはキャロルの創造した恐ろしい怪物ジャバウォックの声を演じたが、このふたりがバートン映画でそれぞれどのような役割を果たしてきたかがよく表れているような配役だ。
ガフはこのドードーの声を最後に、2011年に94歳でこの世を去る。ジェームズ・ボンドの生みの親イアン・フレミングの従兄弟で、「指輪物語」の原作者トールキンと面識があり、ソ連とフィンランドの冬戦争をはじめ第二次世界大戦で各地に出征し、吸血鬼で、ジェダイ・マスターとも戦い、90歳を過ぎてもずっと演技を続けた伝説そのもののようなクリストファー・リーも、2015年に93歳で冥界に旅立つのだった。