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『グランドツアー』ミゲル・ゴメス監督 ポルトガルの鬼才ミゲル・ゴメスが誘う、自由でアナーキーなナラティブの陶酔【Director’s Interview Vol.522】

撮影: 近浦啓

『グランドツアー』ミゲル・ゴメス監督 ポルトガルの鬼才ミゲル・ゴメスが誘う、自由でアナーキーなナラティブの陶酔【Director’s Interview Vol.522】

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混在するモノクロとカラーの魔法



Q:モノクロで描かれることで過去と現在、ドキュメンタリーとフィクションの境が曖昧になり、現実と幻想が入り混じります。また、突然差し込まれるカラーの手回し観覧車のシーンなどマジックリアリズム効果も感じましたが。


ゴメス:フィクションとドキュメンタリー、またファンタジーに関して、世界は案外そのように見えていると私自身は思っているんです。今回、セットのパートは40〜50年代のスタジオ撮影を踏襲したい願望があり、アジア各地で撮り溜めたフッテージとスタジオ映像の両方をなるべく均一に見せるためモノクロで仕上げようとしていました。しかし、モノクロは日中や明るい場所ではきれいに撮れるのですが、夜や暗い場所は感度の問題で良い映像が撮れない。それでカラーで撮るしかありませんでした。カラーで撮り、その後デジタルでモノクロに変換する作業をしたのですが、編集段階で来る日も来る日もモノクロの映像ばかり見て疲れてしまって(笑)。編集者と相談し、考えを変えてカラーの部分はカラーのままにしたらどうかとなった。それがとても気に入ったので、その方向で行くことにしました。


どうして突然カラー映像が入るのかと、見た人は皆、質問をしてくるだろうとわかっていました。でもそれに対して私たちは、映画は自由かつアナーキーで野生的な面があり、理由なくカラー映像が入ってきても、それはそれで美しいと捉えてもらえればいい。そう答えればいいだろうと(笑)。



『グランドツアー』© 2024 – Uma Pedra No Sapato – Vivo film – Shellac Sud – Cinéma Defacto



登場人物や俳優を操るのは観客



Q:エドワードやモリーが移動する国ごとに、モノクロにカラーが混じる形で影絵や人形劇が登場します。この人形の意味とは? エドワードとモリーもまた、監督が操る人形ということでしょうか。


ゴメス:影絵というのは映画が存在する前の原始的な映画であり、フィクションの原点だと考えます。そして“人形”、“操り人形”こそが映画の中身、俳優もすべてが操り人形なのです。そして、それらは私の操り人形というより、見ている人すべての操り人形だと考えています。なぜなら私にとって登場人物というものは何者でもなく、見る人が自分の気持ちを投影するもの。ですから映画を見る人々はモリーになったり、エドワードになったり、登場人物に自身の考えや思いを投影し、それぞれが映画を完成させるのです。


Q:それでは横たわるモリーが光の中で目を覚まし、まるで文楽人形のように支えられて退場する場面も、見る人それぞれが解釈すればよいということになりますか。

 

ゴメス:この映画がプレミア上映された2024年のカンヌ国際映画祭以降、観客のさまざまなリアクションを見てきました。悲劇だと捉える人もいれば、目覚めて立ち上がって旅を続けるか、また、あくまで立ち上がるのは女優だという解釈の人もいました。私が言えるのは「想像にお任せします」ということだけ。ちなみに影絵も操り人形も、そして映画もすべては生きて死ぬ。その日の劇や映画では死んでも、翌日の上演、上映ではまた生き返るものと思っています。


Q:ドキュメンタリーとファンタジーが混ざり合うアピチャッポン・ウィーラセタクンとコンビを組むサヨムプー・ムックディプロームが撮影を担当すると聞き、監督との相性の良さを期待していました。また中国編ではジャ・ジャンクー映画の舞台も登場します。今回アジア各地で物語を語る上で彼らの映画からインスパイアされたものがありますか。


ゴメス:サヨムプー・ムックディプロームは最近では『君の名前で僕を呼んで』(17)など、ルカ・グァダニーノ監督とも仕事をしていますね。ジャ・ジャンクー監督の『長江哀歌』(06)で描かれた長江流域でも今回ロケをしました。彼らと私には共通するビジョンがあると思います。さらに年に2,3本というハイペースで創造性の高い作品を生み出している韓国のホン・サンス監督も素晴らしいと思います。


ここ40〜50年の間、次々と新しい才能を生み出しているアジア映画は今の映画界でもっともパワフルで刺激を受けずにはいられません。ポルトガルは...というと、映画産業が育たない小さな国です。でも利点もあって、ポルトガルだけでは商業的なヒットや収益が見込めないため、商業映画の依頼が私に来ることはない。だから私は個人的な映画、自身の芸術を追求する映画を作ることができるのです。



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監督/共同脚本:ミゲル・ゴメス

1972年、ポルトガル・リスボン生まれ。リスボン映画演劇学校で学び、映画評論家としてキャリアをスタートさせた後、1999年に短編『Meanwhile(英題)』、2004年に長編デビュー作『自分に見合った顔』を発表。続く『私たちの好きな八月』(08)は、カンヌ国際映画祭監督週間で上映。2012年には『熱波』で、ベルリン国際映画祭の国際批評家連盟賞とアルフレッド・バウアー賞を受賞し、国際的な名声を確立した。「千夜一夜物語」をモチーフに、現代のポルトガルを6時間超えの3部作で描いた『アラビアン・ナイト』(15)、妻・モーレン・ファゼンデイロと共同監督を務めた『ツガチハ日記』(21)は、カンヌ国際映画祭監督週間で上映。長編第6作目となる本作『グランドツアー』(24)は、カンヌ国際映画祭コンペティション部門でプレミア上映され、監督賞を受賞するなど高い評価を獲得した。現在は、ブラジルの作家エウクリデス・ダ・クーニャの著書に基づく『Savagery』、そしてフランスの漫画家・イラストレーターであるブレックスボレックスのグラフィック・ノベルを原作とする『Cantiga』に取り組んでいる。



取材・文:久保玲子

編集プロダクション、映画宣伝を経て、フリーの映画ライターに。雑誌「ELLE JAPON」「T JAPAN」「Harper's BAZAAR」等、パンフレットにインタビューや映画評を寄稿。




『グランドツアー』

TOHOシネマズ シャンテ、Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほか全国公開

配給:ミモザフィルムズ

© 2024 – Uma Pedra No Sapato – Vivo film – Shellac Sud – Cinéma Defacto

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