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『グランドツアー』ミゲル・ゴメス監督 ポルトガルの鬼才ミゲル・ゴメスが誘う、自由でアナーキーなナラティブの陶酔【Director’s Interview Vol.522】

撮影: 近浦啓

『グランドツアー』ミゲル・ゴメス監督 ポルトガルの鬼才ミゲル・ゴメスが誘う、自由でアナーキーなナラティブの陶酔【Director’s Interview Vol.522】

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ベルリン国際映画祭で国際批評家連盟賞に輝いた『熱波』(12)や、『アラビアン・ナイト』3部作(15)等で知られるポルトガルの鬼才ミゲル・ゴメス。逃げる男と追う女が繰り広げる、時空を超えた大旅行の行方を描く『グランドツアー』(24)は、カンヌ国際映画祭の監督賞を受賞。過去と現在、ドキュメンタリーとフィクション、リアルとファンタジーを混在させ、ビルマ(ミャンマー)、シンガポール、タイ、ベトナム、フィリピン、日本、中国の7カ国をめぐるグランドツアーに見る者をいざなう。この話題作について、来日した鬼才に聞いた。



『グランドツアー』あらすじ

1918年、ビルマのラングーン。大英帝国の公務員エドワードと結婚するために婚約者モリーは現地を訪れるが、エドワードはモリーが到着する直前に姿を消してしまう。逃げる男と追う女の、ロマンティックでコミカルでメランコリックなアジアを巡る大旅行の行方は…。


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逃げる男と追う女の行方



Q:本作はサマセット・モームの「パーラーの紳士」に着想を得ているそうですが、この小説を読んだのが結婚式の前夜だったということは、作品にどのように作用していますか。


ゴメス:モームの「パーラーの紳士」は不思議な夫婦の話です。当時のビルマに駐在しているイギリス人公務員が、婚約者がやってくると知り、逃避行に逃避行を重ねます。20世紀初頭、イギリスの植民地の街から出発して、中国や日本に向かうアジアのグランドツアーはとても人気の旅でした。原作のラストは二人が最終的に結婚してハッピーエンドに収まるステレオタイプのものですが、私はそのまま描くことに興味がないので、骨組みだけ借りています。私はその小説を結婚前夜に読み、妻におかしな話だねと話したりしたのですが、幸い私も妻も逃げ出さずに結婚できて、今も結婚は続いています(笑)。



『グランドツアー』© 2024 – Uma Pedra No Sapato – Vivo film – Shellac Sud – Cinéma Defacto


Q:結婚から逃げる男と、追う女。前半の展開や、モリーがオーバーな笑いをくり返すところは、スクリューボール・コメディを意識されていますか。


ゴメス:本作では21世紀にポルトガル人俳優がイギリス人に扮して演じていますが、スクリューボールコメディは1930~40年代にアメリカ、ハリウッドで確立されたスタイルですね。撮影前、私は実際にキャサリーン・ヘプバーンとケーリー・グラント出演のハワード・ホークス監督作『赤ちゃん教育』(38)を意識してほしいと俳優たちに言いました。現代的な自然な演技ではなく、まさにスクリューボール・コメディから飛び出してきたような演技、子どもがお芝居しているような感じが欲しいんだと。


Q:前半はコメディ調で軽妙に進みますが、後半に転調が起こりますね。


ゴメス:現代の映画には1分間のために50カットほど撮って、それをどんどん削って繋げていく目まぐるしい作品がたくさんありますが、私には同じ場所をぐるぐる回っているように思える。私はそういった映画に興味がないのです。非常に軽やかなコメディ、一見するとバカバカしい男女の関係から始まって、いつのまにか悲劇で終わってしまう。そういうものが私にとっては必要な流れ、動きなんです。最初のうちモリーは妙な笑い方をして、とても軽く、頭は大丈夫?という感じなのですが、だんだんとダークに、取り憑かれたようになっていく。「白鯨」の船長が鯨を殺すことに固執するあまり、自分と周囲の人々に破滅を招いてしまうように、モリーもエドワードに会って、どうしても自分の目的を達成したい一心で突き進む。映画は最終的にそこに集約されて行くんです。





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