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  3. 僕のやりたいことの真髄は人間を描くこと。ベネチアを制した巨匠、サミュエル・マオズ監督『運命は踊る』【Director’s Interview Vol.9】
僕のやりたいことの真髄は人間を描くこと。ベネチアを制した巨匠、サミュエル・マオズ監督『運命は踊る』【Director’s Interview Vol.9】

僕のやりたいことの真髄は人間を描くこと。ベネチアを制した巨匠、サミュエル・マオズ監督『運命は踊る』【Director’s Interview Vol.9】

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「アクション」と同時に産声をあげる自分の世界



Q:動物の使い方もとても印象的だと思いました。特にラクダですが、最初の検問所では、ゆったりと登場するのに、その後ラクダが大きな事件に絡んでくるのは、まるで皮肉のように感じました。


サミュエル:イスラエルは砂漠ですから、ラクダはあちこちにいるんですよ(笑)。


 でも、ラクダにはラクダの役割があって、一つはあの登場のさせ方はドラマツルギーでいうところの、「チェーホフの銃」なんです。チェーホフの銃というのは、1幕目でテーブルに銃が置かれ、3幕目では誰かが撃ち殺されるだろうという劇作のテクニックなのですが、今回のラクダの役割もそうです。ラクダは登場したけど、出てきた時はまさか重要な出来事に関わってくるとは思わない。そういう意味でもまさに、チェーホフの銃になっています。


 また、それ以上にあのラクダが象徴していることは、あの砂漠にいることの不毛さです。ラクダが出てきた画で、こういう世界観なのだとパッと分からせる意味もあるんです。検問所で若い兵士が踊っていて、そこへラクダがトコトコやってくる。これだけで前線じゃないというのが一瞬にして分かる。だから、そういう中であのラクダが何かを象徴しているのだとしたら、それはやっていることの不毛さですよね。


 そして、それはさらに言うとイスラエル社会の今やっていることの不毛さを描いているんです。イスラエルという国家は「我々は今実存的脅威を抱えている」「我々は終わりなき戦争にとらわれている」「我々は…」っていう意識にがんじがらめになってるんです。実情はそうではないのに、皆そう思っているわけです。非常に不毛なんです。前述しましたが、あの検問所っていうのは社会の鏡なんですね。だから、まずラクダの象徴していることの一つがそれ。



 もう一つの役割は「つかみ」です。この映画では3幕構成で観客の予測を裏切っていくのですが、1幕目のクライマックスを迎えたところで、全然違う2幕目へ観客を連れて行ってしまうわけです。キャストも変え、場所も変え、スタイルも変え、画風も変え。だから、2幕目の1~2秒でちゃんとつかんでおかないと、観客は混乱してしまうと思うので、ちょっと笑いを入れるようにしています。緊張感ある1幕目の直後ということもありますしね。そうやって観客をつかもうと思ったわけです。だから、兵士が踊ったり、ラクダで入ってきたりっていうくだりにしてるわけです。


Q:映画的な話法を駆使してこの映画は作られているように思いましたが、監督自身が影響を受けた映画や監督について教えてください。


サミュエル:挙げたらきりがないのですが、ベルイマン、タルコフスキー、キューブリック、黒澤明。また、哲学や文学になりますが、ニーチェ、カフカ、村上春樹なんかもそうですね。影響を受けた方は大勢います。


 結局、映画監督がひねり出すものっていうのは、自分の内面世界であったり、世界観であったり、視点であったり、ビジョンであったり、いろんな先人たちの影響であったり、そういうのが全部ごちゃ混ぜになって何かが生まれ出ると思うんですね。




 撮影中、「アクション、スタート!」と言ってからカットをかけるまでの間は、自分の世界が産声を上げるんです。その間、周りの世界は止まってくれる。「カット!」と言ったところでまた世界が動き回るという、そういう感覚があるんです。映画監督はそうやって自分の世界を生み出していってるんです。



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