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僕のやりたいことの真髄は人間を描くこと。ベネチアを制した巨匠、サミュエル・マオズ監督『運命は踊る』【Director’s Interview Vol.9】

僕のやりたいことの真髄は人間を描くこと。ベネチアを制した巨匠、サミュエル・マオズ監督『運命は踊る』【Director’s Interview Vol.9】


 暗く重く、難解なイスラエル映画かと、見る前に思っていた偏見は吹き飛ばされた。サミュエル・マオズ監督の描く『運命は踊る』は、大胆な三幕構成の下、印象的なシーンとビジュアルで、見る者を虜にしていく。作品の中で鳴り響いていたマンボの音は、今でも頭から離れない。そんな映画的話法に満ちた『運命は踊る』の監督、サミュエル・マオズ氏に自身の創作術について話を聞いた。


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どんなダイアローグよりも雄弁に語るビジュアル



Q:1幕目のミハエル(父)を中心としたシーンは、重くて息苦しいほどのリアリティを感じました。一方、2幕目のヨナタン(息子)を中心としたシーンは、戦場であるにもかかわらずとても幻想的で、まるでSF映画のワンシーンのようでした。なぜそのような構成にしたのでしょう。


サミュエル:2幕目に出てくる検問所の、ヨナタンら兵士の日常は退屈なわけですから、そのままリアルに描いたら当然退屈になってしまうんです。なのでそこはあえて映画的に演出しました。


 そして何よりここは、シュルレアリスム的に描きたかったんです。この場面はIDF(イスラエル国防軍)を非難しているような一幕であり、イスラエルの人々にとってはとてもセンシティブで、ある意味タブーな問題に触れている場面です。IDFというのはトラウマ(ホロコースト)からイスラエルの民を解放した軍なので、触れてはならない領域なんです。だから、あえてそこを非難するには寓意として表現するしかないと思いました。




 なので、検問所はイスラエル社会の縮図として描いているんです。検問所(イスラエル)の周りは、不穏な空気に包まれた怖い外界が存在している。でも、実際は何もなく、何も起こらない。また、検問所には、兵士たちが寝泊まりしているコンテナがあるのですが、それが日々傾いている描写が出てきます。これはわれわれの社会が少しずつ傾いてるということの寓意なんです。そうやって、触れてはならない問題にあえて触れさせる一つの手法として、シュルレアリスムを選びました。


Q:映画の中では、俯瞰の画角が何箇所もあったり、カメラワークも凝っていたりと、とても印象的な画作りでした。


サミュエル:観客には映画体験をしてほしいんです。だから僕はビジュアルで語っていく。ビジュアルで語ることによって、描いているキャラクターの心の深部を突き、表現していくことを心掛けています。ストーリーテリングをするときにはビジュアルが大きな柱になるんです。


 言葉は真実にありつく前のフィルターでしかないと思っています。本当に真実を語るのは人の目線だったり、目付きだったり、立ち振る舞いだったりします。それでこそ真に迫ってくる描写ができます。「美しい」という言葉がいくつあったとしても、1つの美しいものを捉えたビジュアルのほうが雄弁だと思うし、違う国の人であっても字幕なしにそれを感じ取ることができますよね。




 例えば、1幕目のミハエルのアパートのシーンでは、引きの1枚のショットだけで、ミハエルがどういう人生、どういう生活を送っているかを雄弁に語っています。アパートは物がシンメトリーに配置され、細部までこだわりがあり、幾何学的で、とても冷たい様子を感じさせます。まさにそのありさまがどんなダイアローグよりも雄弁に、彼のありようを語ってると思うんですね。ダイアローグにしたら4~5ページ必要かもしれませんが、それを1枚のショットだけで語らせようとしたんです。



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