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吸血鬼ノスフェラトゥ対ドラキュラの花嫁【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.11】

吸血鬼ノスフェラトゥ対ドラキュラの花嫁【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.11】


ドラキュラの花嫁、フローレンス・ストーカー





 ドイツのおぞましい怪物映画について知った瞬間から、フローレンス・ストーカーは夫の書いた「ドラキュラ」から血を吸おうとする男たちと闘うことになる。夫の作品はもちろん守らなければならなかったが、同時に彼女は自分の生活も守らなければならない。「ドラキュラ」は独りで生きる彼女にとって数少ない財産のひとつだったのだ。かつてヴィクトリア朝社交界の花形だった頃のフローレンスの美貌は、60代半ばになろうというそのときもまだ健在で、意思も強かったという。オスカー・ワイルドの求婚を断ったことでも有名な彼女だが、同じ不死身の男でもドリアン・グレイではなくドラキュラを選んだわけだ。かくしてドラキュラの花嫁は固い意思を胸にドイツの吸血鬼への追及を始めた。


 20世紀初頭、創世記にあった映画という分野を前に、ヴィクトリア朝の住人であるフローレンスはさぞ途方に暮れただろうと思う。映画制作者側の方もまだ成熟していないとなれば尚更だ。フローレンスにとって映画とは得体の知れない新メディアで、吸血鬼と同じくらい不可解なものだったかもしれない。スクリーンに映し出された色と声を持たない人々はまるで幽霊のようだし。しかも相手はあの不気味なノスフェラトゥだ。ドラキュラを守るためにその異様な同族を退治しようとするフローレンスは、人間として吸血鬼を倒すヴァン・ヘルシングというよりは、同族狩りのヴァンパイア・ハンターのようだ。これで一本映画が出来そうな予感さえある。


 イギリス人作家をサポートする作家協会の助けを得たフローレンスは、当然ながらノスフェラトゥの胸に杭を打ち込むことに成功するが、彼女にとって残念なことに『ノスフェラトゥ』を生み出した映画会社はすでに経営不振になっており、賠償金が払えそうになかった。そこでフローレンスはネガとプリント、全てのフィルムの破棄を求め、裁判所もそう命じた。こうして偽ドラキュラは永久に葬られたかのように思われたが……。


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