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吸血鬼ノスフェラトゥ対ドラキュラの花嫁【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.11】

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最古にして海賊版、ドイツ映画『ノスフェラトゥ』



 タイタニック号沈没の6日後に「ドラキュラ」の作者ブラム・ストーカーが死去してから10年後の1922年、ドイツで一本の映画が公開された。F・W・ムルナウ監督による『吸血鬼ノスフェラトゥ、恐怖の交響曲』は、のちにドイツ表現主義を代表する映画のひとつとなり、吸血鬼映画の元祖ともなった。基本的な物語はストーカーの「ドラキュラ」がベースで、ドラキュラの名がノスフェラトゥ(またはオルロック伯爵)、ハーカー夫妻はヒュッター、ヴァン・ヘルシング教授がブルワー教授という具合に置き換えられている。


 なによりもストーカーの原作と違うのは(その後のドラキュラ映画とも決定的に異なるわけだが)、吸血鬼の風貌だ。硬直したようなぎこちない姿勢(思わず真似したくなるような感じ)、大きな鷲鼻にぎょろぎょろと動く不気味な眼、毛のない丸い頭とその両側から突き出した大きな耳、口からは尖った前歯が覗いている。のちにベラ・ルゴシやクリストファー・リーが見せる夜会服姿の高貴な印象とは程遠く、どちらかと言えば獣そのもののようだ。エレガントなドラキュラ像ももちろん好きだけれど、ノスフェラトゥのこの異様なヴィジュアルもぼくは大好きだ。


 後世のどのドラキュラとも違う異質の存在感を放つノスフェラトゥは、今となっては唯一無二の吸血鬼。しかし、ノスフェラトゥは吸血鬼映画の元祖でありながらも、正統なドラキュラ作品からは逸れていた。この作品は原作者側からなんの承諾も得ずに作られたものだったのである(外国で作ったからとは言え、登場人物たちの名前が全部違うことからもその事情はなんとなく伝わってくる)。やがて、吸血鬼ノスフェラトゥの出現は、夫亡き後「ドラキュラ」から得られるわずかな印税で暮らしていた未亡人フローレンス・ストーカーの知るところとなるのだった。



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