生きるという希望を捕まえにいく
Q:ゆっくり、じっくりと、決して忙しなくならずに、常にカメラが動いている印象がありました。カメラマンの鎌苅洋一さんとはどんなお話をされて全体の世界観を作っていかれましたか。
石井:この撮影前に、鎌苅さんは生死の境をさまよう自動車事故に遭われていて、本人も冗談ではなく「三途の川を見た」と言っていたくらいでした。今回の作品では、先ほど話したような理由もあって、“死”というものに触れたり、それを強く考えている人と組みたかった。撮影のタイミングでもお体は完全には元に戻っておらず、手持ちカメラもままならない状況でしたが、たとえ画面が揺れたとしても鎌苅さんが見ている世界を撮って欲しかった。鎌苅さんに多くを語る必要はあまりなかったですね。“死”にはしっかりと向き合う。そして、必ず“生きる”という希望を捕まえにいこうと。そういう方針を共有していたと思います。

『人はなぜラブレターを書くのか』©2026映画「人はなぜラブレターを書くのか」製作委員会
Q:大作映画の趣を感じ、ボクシングの試合のシーンなども世界戦の様子がしっかりと描かれていました。これまで多くの映画を撮られてきましたが、作品・予算規模の違いは演出的にどのように影響してくると感じていますか。
石井:例えば『茜色に焼かれる』(21)はコロナ禍の真っ只中で撮影したため、エキストラがほぼいませんでした。いたとしてもスタッフが通行人をやるくらい。それでもむしろ、あの狭い閉塞感タップリの世界観こそがコロナの時代を描くのにふさわしいと考え、あえて逆手に取って作りました。
今回はそれとは全く異なります。アナモフィックレンズを使用し、奥行きや背景の広がり、世界の広がりを大切に撮影したため、画面内にいるべき人の数も当然多くなる。映画の作りや構えそのものが必然的に大きくなります。
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監督/脚本:石井裕也
1983年生まれ/埼玉県出身 大阪芸術大学卒業、日本大学大学院芸術学研究科映像芸術専攻修士課程修了。『舟を編む』(13)では、第37回日本アカデミー賞では最優秀作品賞、最優秀監督賞ほか6冠に輝く。その後、『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』(17)で第91回キネマ旬報ベスト・テン第1位、ベルリン国際映画祭出品。近年の作品に『アジアの天使』(21)、『月』(23)、『愛にイナズマ』(23)、『本心』(24)などがある。
取材・文:香田史生
CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。
撮影:青木一成
『人はなぜラブレターを書くのか』
4月17日(金)全国劇場にてロードショー
配給:東宝
©2026映画「人はなぜラブレターを書くのか」製作委員会