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『人はなぜラブレターを書くのか』石井裕也監督 言葉にできないものを描く【Director’s Interview Vol.543】

『人はなぜラブレターを書くのか』石井裕也監督 言葉にできないものを描く【Director’s Interview Vol.543】

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“死”の痛みがあるから“生”が意味を持つ



Q:物語の構成上、主演の綾瀬さんは画面に出ずっぱりというわけではありません 。しかし存在感がとても大きく、確実に映画を牽引していました。綾瀬さんとのお仕事はいかがでしたか。


石井:あんなに捉えどころのない不思議な魅力を持っている方は初めてでしたね。今回の綾瀬さんの輝きは、60%ぐらいは妻夫木さんのおかげです。妻夫木さんが夫役としてしっかりと彼女に向き合ったからこそ、あの特別な魅力が引き出された。妻夫木さんの力があってこそ、今回の綾瀬さんの魅力に繋がっていったと思います。


Q:石井監督の直近の作品では、個性の強いキャラクターが多数登場し、それが映画の面白さに繋がっている印象がありました。しかし今回はそういった強烈な個性の人物はあまり登場せず、普通の暮らしを営む市井の人々を中心にドラマが進みます。それでもずっしりと見ごたえのある映画になっている。物語を表現する上で、観客が楽しめるように気をつけていたことはありますか。


石井:今回は“死”というものが中心にあり、最初から最後まで死のムードが漂い続けている。現に人が亡くなりますし、登場人物も“死”についての会話をします。脚本執筆段階で「そこまで死の話をしないでください」と言われました。理由を聞くと、「死を前面に出しすぎると観客を遠ざけてしまうから」と。


しかし、僕の意見は正反対でした。僕には小さな子供がいますが、“人が死ぬ”ということに対して当然興味津々です。ジブリ映画は優れたエンターテインメントでありながら、“死”のイメージが随所に感じられます。ジブリの作品を見ると「なんだこの不思議な世界は…」と訳も分からないまま感覚的に惹きつけられる。今回は、死を遠ざけるのではなく、むしろきちんと向き合うことを心がけました。



『人はなぜラブレターを書くのか』©2026映画「人はなぜラブレターを書くのか」製作委員会


Q:早朝のシーンが多く象徴的に使われています。意図したものはありましたか。


石井:いわゆる「丑三つ時」です。深夜にふと目が覚めた時の、あの暗い世界の様子。家の中の電気も消えていて、朦朧とした意識の中で普段は考えないようなことを考え始めるとき、死んだ人やもう会えないはずの人、過去の傷や痛みなど、そういうものに向き合う時間。そんな独特な世界をなんとか映像化したかった。その時間の終わりを告げる早朝の光もこだわって撮りました。


また、この作品では世界を繋いでいく水、川のイメージを撮りたかったので、脚本を書きながら「千葉県の香取市で撮ろう」と決めていました。香取市の朝焼けや夕焼けは息を呑むほど美しくて、いつかここで映画を撮りたいと何年も前から考えていたんです。


Q:“死”というものを後ろ向きに捉えず、次に進む再生としての感覚が画に落とし込まれていたようでした。


石井:“死”はもちろん悲しいものですが、その痛みがあるからこそ隣にある“生”がとても意味を持つ。逆に言うと、死がなければ生きることの素晴らしさは絶対に無いはずなんです。そういうものを描きたかったのかなと思います。




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