※本記事は物語の核心に触れているため、映画をご覧になってから読むことをお勧めします。
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孤独、暴力、狂気、善悪…スコセッシ的シグネチャー
嵐が迫っている
俺の命が脅かされる
シェルターを手に入れなければ
そうだ、俺は消え去るんだ
『ディパーテッド』(06)は、ローリング・ストーンズの「Gimme Shelter」をバックに幕を開ける。ベトナム戦争真っ只中に作られたこの曲は、アメリカ国家の暴力を歌った黙示録ロック。どうやら監督のマーティン・スコセッシはこのナンバーがお気に入りのようで、『グッドフェローズ』(90)、『カジノ』(95)にも挿入歌として使っている。孤独、暴力、狂気、善悪というスコセッシ的シグネチャーを、最も端的に表した一曲なのだろう。
本作は、トニー・レオンとアンディ・ラウが主演した香港ノワール『インファナル・アフェア』(02)のリメイク。公開されて間もない2003年に、ワーナー・ブラザーズが175万ドルでリメイク権を獲得した。脚本家として招聘されたウィリアム・モナハンは、汗ばむような湿気の香港から、ボストン南部の犯罪多発地域サウシーへと舞台を移し替え、血で血を洗うクライム・サスペンスを書き上げる。
地域一帯を仕切るギャングの首領フランク・コステロ(ジャック・ニコルソン)によって育てられたコリン・サリバン(マット・デイモン)は、警察の動きを内密に知らせる内通者=ネズミとして、マサチューセッツ州警察に送り込まれる。その一方、警察学校を優秀な成績で卒業したビリー・コスティガン(レオナルド・ディカプリオ)は、コステロの組織への潜入捜査を命じられる。やがて、真逆の役割を与えられた2人の運命が交錯していくーーー。
『ディパーテッド』(c)Photofest / Getty Images
契約書にサインをするまで、マーティン・スコセッシは香港映画のリメイクであることに気づかなかったと言う(あれだけのシネフィルなのに!)。だが、『ディパーテッド』も孤独、暴力、狂気、善悪のモチーフが組み込まれた、紛うことなきスコセッシ映画だ。そしてもうひとつ、彼の映画で繰り返し使われてきた<擬似的な父子関係>というテーマも、色濃く反映されている。最後は子の裏切りによって、王の座を奪われる父の物語を。
『ハスラー2』(86)のエディ(ポール・ニューマン)とヴィンセント(トム・クルーズ)、『グッドフェローズ』(90)のジミー(ロバート・デ・ニーロ)とヒル(レイ・リオッタ)、『ギャング・オブ・ニューヨーク』(02)のビル(ダニエル・デイ=ルイス)とアムステルダム(レオナルド・ディカプリオ)。『ディパーテッド』もまた、フランクとコリンという擬似的な父子の愛と裏切りの歴史が綴られている。