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『ディパーテッド』擬似的な父子関係が織りなす、愛と裏切りの物語 ※注!ネタバレ含みます

(c)Photofest / Getty Images

『ディパーテッド』擬似的な父子関係が織りなす、愛と裏切りの物語 ※注!ネタバレ含みます

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擬似的な父子関係



 カトリック教徒の家庭で生まれ育ち、幼少時は神父になることを目指していたスコセッシにとって、ユダがキリストを密告した<子の裏切り>は極めて重要な神学的課題なのだろう。それはまさに、ゴルゴダの丘で十字架に磔にされるキリストを描いた『最後の誘惑』(88)のテーマそのもの。『沈黙 -サイレンス-』(16)でも、キリスト教禁止令を敷く日本の地で、キリスト(=父)の教えを最後まで信じきれるか否か、という宣教師たち(=子)の煩悶が描かれていた。


 ビリーと、彼に危険な任務を与えるクイーナン警部(マーティン・シーン)もまた、擬似的な父子関係を結んでいる。一刻も早く潜入捜査から手を引きたいと懇願するビリーに対して、フランク逮捕に命をかけるクイーナンは決してそれを許さない。まるで、我が子に試練を与える厳格な父親のように。だが、ビリーは決して父を裏切ることはせず、クイーナンもまた我が子の安全を守るために自ら死地に赴く。<子の裏切り>に帰着しない擬似親子を描くことで、コステロとコリンの血みどろの父子関係が浮き彫りとなる。



『ディパーテッド』(c)Photofest / Getty Images


 もともとクイーナン警部役には、スコセッシの盟友ロバート・デ・ニーロが候補に上がっていた。しかし、彼の監督作『グッド・シェパード』(06)の撮影スケジュールとぶつかってしまったために出演を固辞。面白いのは、『グッド・シェパード』ではマット・デイモン演じる主人公エドワードを情報機関にリクルートするサリヴァン将軍として、デ・ニーロが出演していること。ここでは、ロバート・デ・ニーロとマット・デイモンが擬似的な父子関係を結んでいる。


 共演が叶わなかったデ・ニーロとディカプリオだが、実は『ディパーテッド』を遡ること23年前に、『ボーイズ・ライフ』(93)で継父とその息子役で共演ずみ。2人はすでに父子関係を築いていたのだ。そして、スコセッシの最新作『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』(23)でも、2人は久々に共演。オクラホマの有力者として名を馳せているウィリアム・ヘイル役をロバート・デ・ニーロ、叔父である彼を頼ってその土地にやってきた青年アーネスト役をレオナルド・ディカプリオが演じている。擬似的な父子の愛という、『ディパーテッド』的モチーフがここでも反復されている。


 これはあくまで筆者の推測だが、もしクイーナン警部役をマーティン・シーンではなくロバート・デ・ニーロが演じていたら、『ディパーテッド』は二組の擬似的な父子の物語がより強調された作品になっていたのではないか。





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