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『ソング・サング・ブルー』、大人の映画です【えのきどいちろうの映画あかさたな Vol.102】

© 2025 Focus Features LLC. All rights reserved.

『ソング・サング・ブルー』、大人の映画です【えのきどいちろうの映画あかさたな Vol.102】

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 映画ってこういうことができるんだなって思いました。主演は『レ・ミゼラブル』(12)、『グレイテスト・ショーマン』(17)のヒュー・ジャックマンです。つまり、エンタメの王道です。歌も演技力も折り紙付き。どんな役を振ってもこなしてしまいます。顔に説得力があると思うんです。あんな強い顔で生まれたらヒュー・ジャックマンにならざるを得なかったんじゃないかと思う。で、イメージとしてむちゃくちゃ頑張るでしょ。『レ・ミゼラブル』なんかあれっぽっちのことであそこまで追いかけ回されるのは変なんですけど。ヒュー・ジャックマンが頑張って逃げるから安心して見てられる。どんなエンタメでも成立させてしまう稀代のスターですね。


 その稀代のスターが今回、「スターになれなかった男」を演じているんですよ。


 映画『ソング・サング・ブルー』(25)でのヒュー・ジャックマンの役どころは「歌まね」で糊口をしのぐ二流芸能人といったところです。これは実話だそうなんですけど、面白いところに目をつけたなぁと思います。「歌まね」という言い方は『ソング・サング・ブルー』公式HPを参照したんですけど、ちょっと説明が必要かもしれません。日本のエンタメのイメージだと、コロッケさんを頂点とするような「ものまねタレント」を思い浮かべてしまうんじゃないでしょうか。これはかすってるけど微妙に違うんですよ。日本のものまね芸って(コロッケさんがわかりやすいですけど)本人のちあきなおみなり五木ひろしなりの特徴をデフォルメして笑いを取る方向がメインじゃないですか。


 アメリカで人気があるのはトリビュートバンドです。『MR.JIMMY ミスター・ジミー レッドツェッペリンに全てを捧げた男』(23)っていう傑作ドキュメンタリーがあるんですけど、ジミー桜井っていう日本人ギタリストがツェッペリンのジミー・ペイジを完コピして、アメリカをツアーして回るんですよ。その完全主義にしびれるんです。何年のどこのステージの演奏って細部まで再現して、衣装もライブ映像を見て手作りしている。笑いを取るんじゃないんです。とことん惚れ込んで、「本物そっくり」をファンダムに提供している。アメリカにはツェッペリンならツェッペリン、ブラック・サバスならブラック・サバス、あるいはイーグルスとかドゥービー・ブラザーズでもいいけど、そういう「本物そっくり」を見せてくれるトリビュートバンドがいっぱいあって、ショービズとして成り立っている。



『ソング・サング・ブルー』© 2025 Focus Features LLC. All rights reserved.


 ただ『ソング・サング・ブルー』でヒュー・ジャックマンが演じるマイク・サルディーナはだいぶ疲れた男なんです。『MR.JIMMY』のジミー桜井が見せる燃焼感や狂気からは遠い。かつてロックスターを夢見て、それが果たせず、戦争のトラウマを抱えて、何となく他にやることもないので「歌まね」ミュージシャンを続けている酒びたりの男ですね。レパートリーとしてはニール・ダイアモンドを歌っている。このニール・ダイアモンドって選びが絶妙です。いちばん有名なのは『スイート・キャロライン』ですよね。1969年のヒット曲。ビートルズとかツェッペリンとか、そういうカリスマはないけど、幅広い人気がある。みんな知ってます。アメリカの野球場でも、欧州のサッカー場でも、オーストラリアのラグビー場でも『スイート・キャロライン』は定番曲です。サビの♪オッオッオーのところはみんなが合唱する。マイクはみんながリラックスして楽しめる、いい選びをしたわけです。


 そして、ケイト・ハドソン演じる歌手、クレアと出会います。これが最初のデートでニール・ダイアモンドの『チェリー・チェリー』の即興セッションになる。これがいきなりハマるんだ。まさに化学変化。二人は恋に落ち、歌への情熱を取り戻し、「ライトニング&サンダー」という夫婦バンドを結成する。ケイト・ハドソンの好演はいくら誉めても誉め足りないほどです。まず、ヒュー・ジャックマンとの歌の場面がとんでもなく楽しい。ロックスターの栄光なんか掴めなくても音楽には絶対の喜びがある。


 クレアの生き方はこの映画のメッセージになっていると思います。人生には困難が待ち受けてるかもしれない。夢は実現しないかもしれない。けれど、前向きに生きてみよう。音楽に心弾ませてみよう。人と出会うこと、生きることには値打ちがある。どんなときもそれを諦めずにいよう。


 タイトルの『ソング・サング・ブルー』はニール・ダイアモンドの渋めの曲なんですけど、むっちゃ耳に残りますよ。ていうか、映画館の帰り道、歌ってるんじゃないかなぁ。これは大人の映画ですね。こういうのが幸せなんだと思いますよ。



文:えのきどいちろう

1959年生まれ。秋田県出身。中央大学在学中の1980年に『宝島』にて商業誌デビュー。以降、各紙誌にコラムやエッセイを連載し、現在に至る。ラジオ、テレビでも活躍。 Twitter @ichiroenokido



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『ソング・サング・ブルー』

4月17日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国ロードショー

配給:ギャガ ユニバーサル映画

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