エキストラにこそ力をいれる
Q:前田哲監督からリクエストなどはありましたか。
小川:特になかったですが、ラストの法廷シーンの朝日道子について「赤の服がいいかな?」と相談はありました。私も赤がいいと思っていて、今でもアメリカの政治家など“ここぞ”というときに赤のネクタイをしたり、女性は赤のスーツを着たりすることがありますよね。あれは昔からそうなんです。80年代のアメリカ映画っぽくしたかったこともあり、やっぱり赤だなと。ただ、最後までギリギリまで迷っていたことが1点あって、それは現場の床の色も赤だったことでした。それで埋没するのも嫌だなと。他に考えられる色としては白になりますが、でも赤で正解でしたね。むしろ床が赤かったことで、赤の衣装でもやりすぎに見えなかった。
Q:当時はDCブランドブームもあり、劇中の男性はダブルのスーツを着ている人が多かったですね。
小川:男性の袖丈や襟の大きさ、ズボンのシルエットは今とは全然違います。特に筒井道隆さんが演じた弁護士のスーツなどは典型的なあの時代のものですね。
Q:主要キャラクターだけではなく、その周囲のエキストラの方々も当時の衣装を着ていて驚きました。
小川:実はそこが大変なんです。予算の関係もありますし、エキストラの皆さんとは当日初めて会う方がほとんど。でもエキストラをリアルにしないと、映画が破綻しちゃう。私としてはそっちの方に力が入りますね。エキストラの方々には自前の衣装をお願いすることが多く、「こういう年代の設定です」「こういう色は着ないでください」と事前にアナウンスはするのですが、まぁ、難しいですよね。そのまま自前の私服で出てもらったら映画が成立しなくなってしまう。それで、一応人数分ぐらいはこちらでコーディネートしたものを用意しておくんです。事前にエキストラさんの写真を見せてもらってはいますが、当日顔を見ると印象が違う。事前に想定して揃えておいた服が似合わないことも多いですね。サイズが違っていることもよくありますが、そのときは持って行った服の中から、その場でパパッと再コーディネートして着てもらっています。サラリーマンの襟が時代と違うなと思ったら、マフラーを巻いて誤魔化すとかね。そういうテクニックは駆使しています。その襟が見えたら台無しになっちゃいますから。
Q:エキストラが多いと、その作業はかなり時間がかかりますね。
小川:撮影が朝9時開始だとしたら、私たちは5時には現場に入って作業をしています。撮影前にはエキストラさんを含めた出演者全員の顔を見て衣装を調整していますね。

『ファーストボイス』©2026「ファーストボイス」製作委員会
Q:撮影ではエキストラの色の配置も意識されているのでしょうか。
小川:出演者が多い撮影は、絵を描くことと同じ。キャンパスに色を配置していく感覚で調整しています。助監督が「こう動いてください〜」とエキストラに指示を出していくと、同じ色の衣装の人が被ってくることもよくある。そこで気づいてくれれば良いのですが、助監督もやることが多くて忙しいので、色までは手が回らないのがほとんど。そこで私の方で再配置することはよくあります。どの映画でもエキストラの位置は私の方で調整していますね。
Q:監督やカメラマンもそこは小川さんに任せることが多いのでしょうか。
小川:それは人によりますね。そういうことに目が届く方もいますし、それよりも演出や画角に集中される方もいます。前田監督はよく目が届きますね。人だけじゃなくてテーブルの上にあるものでも、「何でここにこの色があるの?」と確認してきます。好き嫌いもハッキリある。だからその辺は私と合うんです。「あ、ここは言ってくるな」と思ったら大体言ってきますね。考えていることが何となく分かる人と、何を考えているのか分からない人がいますが、どちらのタイプの監督も衣裳を考えるのは面白いですね。
Q:色味についてはカメラマンと話すことも多いですか。
小川:色調をどのくらいにするかは聞きますね。昔フィルターを使う場合はよくもらってました。フィルター越しだと色味がまた変わってきますから。