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『ソイレント・グリーン』アンモラルで風変わりなディストピアSF ※注!ネタバレ含みます

©︎2024 WBEI

『ソイレント・グリーン』アンモラルで風変わりなディストピアSF ※注!ネタバレ含みます

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※本記事は物語の核心に触れているため、映画をご覧になってから読むことをお勧めします。


『ソイレント・グリーン』あらすじ

2022年、ニューヨークは人口超過密都市となった。人々は仕事も家も失い、電力の配給もマヒ状態。肉や野菜は希少品で、多くの市民は“究極の栄養食”を謳う新たな合成食品ソイレント・グリーンが配給されるのを待ちわびている。この食品を生産するソイレント社の幹部が殺された事件を追う殺人課の刑事ソーンは、現場となった高級マンションの豪勢な生活に目を見張る。情報に通じた“人間ブック”こと、ソル・ロス老人の協力で捜査を続けるソーンだが、ソイレント・グリーンの秘密を知った老人の足は、公営安楽死施設「ホーム」へと向かっていた…。彼を死に急がせたおぞましい真相とは何か。“ミラクルフード”の正体に勘づいたソーンにも、殺し屋たちの魔手が迫って来る。


Index


過激な映画作家、リチャード・フライシャー



 THE 職人、リチャード・フライシャー。どんなジャンルであろうとも、どんな面倒臭い条件があろうとも、どんな低予算であろうとも、彼はきっちりと仕事をこなして、一定のクオリティを担保する。『ミクロの決死圏』(66)と『絞殺魔』(68)と『トラ・トラ・トラ!』(70)が同じ監督の作品だなんて、誰が信じられるだろう? 彼ほど、自分に求められていることを的確に理解して、為すべきことを実践できるフィルムメーカーはいない。


 だがーーここが非常に面白いところなのだがーーフライシャーの映画は、職人監督の範疇を超えて、しばしば奇妙な輪郭を露出するときがある。例えば、ミア・ファローが盲目の女性を演じる『見えない恐怖』(71)。真っ赤な血で染まったバスタブに死体があるにも気づかず、彼女がお湯の蛇口を閉めるシーン。恐怖を知覚できないことで生まれる悪夢的映像。もしくは、『マンディンゴ』(75)で農園主の女性が黒人奴隷と体を交わすシーン。超えてはいけない一線を超えてしまったような、目撃してはいけないものを目撃してしまったような感覚。観客の倫理を揺さぶるというよりは、画そのものの力で我々をなぎ倒してしまうのだ。


 彼の大ファンを公言している黒沢清は、「1970年代のフライシャーは本当に過激だった」とコメントしている。特に円熟期を迎えてから獲得した、異様な禍々しさ。職人でありながらも、ウェルメイドとは決して言い難い、不穏さに満ちたフィルモグラフィー。それはもちろん、ディストピアSFの名作『ソイレント・グリーン』(73)にも当てはまる。



『ソイレント・グリーン 《デジタル・リマスター版》』©︎2024 WBEI


 舞台は、2022年のニューヨーク。爆発的な人口増加によって街には人が溢れ、深刻な食糧難が襲っていた。貧困層は配給される合成食品を手にするための長い行列をつくり、富裕層は高級アパートで贅沢な暮らしをする超格差社会。そんなある日、合成食品を製造しているソイレント社の幹部サイモンソン(ジョゼフ・コットン)が、何者かによって殺される事件が発生する。殺人課の刑事ソーン(チャールトン・ヘストン)はさっそく捜査を開始。やがて彼は、恐ろしい事実を知ってしまう…。


 一つの画面で複数のレイアウトを分割したり、スライドやズームのテンポに緩急をつけたり、ディゾルブでカットを繋ぎ合わせたり。人類が自然と共生していた時代から、高度に機械化・産業化が進み、やがて大気が汚染されていくまでを、リチャード・フライシャーはオープニングから手際よく見せていく。


 やがて映し出される、「SOYLENT GREEN」のタイトルと、「2022年 ニューヨーク 人口4千万人」というテロップ。ものの3分程度で、ムンムンと伝わってくるディストピア感。話運びもスマートで、いっさいの無駄がない。職人監督リチャード・フライシャーの面目躍如だ。だがもちろん、ラディカルな映画作家としてのフライシャーもこの映画に潜んでいる。ソーンと同居する老人ソル(エドワード・G・ロビンソン)が自殺幇助を受けるシークエンスだ。





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