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『ソイレント・グリーン』アンモラルで風変わりなディストピアSF ※注!ネタバレ含みます

©︎2024 WBEI

『ソイレント・グリーン』アンモラルで風変わりなディストピアSF ※注!ネタバレ含みます

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神なき世界



 元大学教授のソルは、すでに人類が失ってしまった「本を読み、理解する」という技能を有した“ブック”。ニューヨーク市警のソーンの依頼を受けて、殺されたサイモンソンのアパートから持ち出された極秘資料を調査する。やがて彼は、合成食品ソイレント・グリーンが、人間の体からつくられている事実を発見。思わず「神よ…」という言葉を口にする。


 この映画では何度も「God」というセリフが登場する。それは、この世が神なき世界であることを強調するシグナル。サイモンソンは殺し屋に「(殺人行為)は正しくないが必要だ。神にとって」と語り、無惨に殺される。教会の神父は、ソーンに協力を求められると絶望した表情で「主イエスよ…」とだけつぶやき、やがて懺悔室で暗殺される。神の名前が登場するたびに、物語は悲劇的な方向に舵を切って進んでいくのだ。


 そしてソルもまた、「神とは?どこに神が?」と他のブックに問われると、「ホームにある」と言い残してその場を去り、安楽死させてくれる場所…ホームに駆け込む。もはや神が見守ってくれる安住の地は、死後の世界にしかない。ベートーヴェンの交響曲第6番「田園」やグリーグの「ペール・ギュント 第1組曲 朝」の音楽にのせて、この地球から失われてしまった大自然の映像がスクリーンいっぱいに広がり、彼は歓喜にむせびながら息を引き取る。



『ソイレント・グリーン 《デジタル・リマスター版》』©︎2024 WBEI


 筆者が『ソイレント・グリーン』で最も不穏さを感じるのは、映画全体のバランスを崩しかねないほどに尺が長い、この安楽死のシークエンスだ。ソーンがソイレント社の工場に忍び込み、銃撃戦を繰り広げるクライマックスよりも、死を受け入れることで神を見出そうとする老人の姿のほうが、はるかに脳裏に焼き付いている。天国のような音楽と天国のような映像を垣間見せることで、フライシャーはこの世の地獄を逆説的に暴き出す。そこに、黒沢清がいうところの「過激さ」が潜んでいる。


 実は撮影当時、ソルを演じたエドワード・G・ロビンソンは膀胱癌を患っていて、本人はこの映画が最後の作品になることを知っていた。ほとんど耳も聞こえないような状態で、フライシャーの「カット」の声に気づかず、芝居を続けることもしばしばあったという。この安楽死のシーンが人生最後の演技となり、映画の撮影が終わって10日後に彼はこの世を去る。ソルの自殺を止めることができなかったソーンは涙を流すが、それはエドワード・G・ロビンソンの病状を知っていたチャールトン・ヘストン自身の涙でもあった。2008年のインタビューで、ヘストンはこう語っている。


 「『ソイレント・グリーン』は、私がこれまで出演した映画の中で最高の作品でした。エディ(ロビンソン)のおかげです。彼は素晴らしい俳優であり、素晴らしい人物でした。彼はこの映画で最高の演技を披露しています。彼は死期が迫っていて、そのシーンでも亡くなることになっていました。彼と話していて、私は涙が出た。メイクをして衣装を着て、映画のためにセリフを言うことはもう二度とないと知りながら、そこに横たわっていることが俳優としてどんな気持ちなのか、想いをめぐらせてしまったからです」(*1)





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