撮影監督:笠松則通との連携
Q:監督だけではなく、撮影の笠松則通さんや美術の三ツ松けいこさんとも、頻繁に打ち合わせは行われたのでしょうか。
上田:今回はロケハンの回数が非常に多かったんです。制作部からも「VFXを使うか分からない場所でも、とりあえず来てほしい」と言われていたので、可能な限り同行し、現場で各部署と直接コミュニケーションをとっていました。
実際、現場に行ってみないと分からないことは多いですね。現代の建物が多い場所だったとしても、カメラがそちらを向くとは限りません。ロケハンに行って初めて「なるほど、ここにカメラを置くと現代の建物がいっぱい映るのか。ここは処理が難しいかもしれない。でもこっちを向かなければ大丈夫かな」といった具体的な判断を、その場で都度行っていました。
Q:VFXのブレイクダウン動画を拝見すると、雨の中で女性が傘を差して立っている後ろ姿のショットなど、「こんな日常的な風景まで合成だったのか」と驚きました。
上田:そのシーンは、実際の奥の風景に現代物が映り込んでしまうため、どうしても合成が必要でした。さらに、実際のロケ地は道幅が広かったのですが、設定上の「高架下」というシチュエーションを表現するには、もっと空間が狭くなくてはならない。条件を満たす良いロケ地が見つからなかったため、最初から「この場所なら合成を前提に成立させられる」という位置づけで選ばれた場所です。現場の美術とVFXの合わせ技でしか作れないカットでしたね。
Q:笠松さんがアングルを決める際、背景の抜けなどはあまり気にせず、人物の立ち位置を中心に画を作っていかれたのでしょうか。笠松さんとの連携や棲み分けはどのように行われたのでしょうか。
上田:基本的には、笠松さんがテストでカメラを振ったアングルに対して、できるだけその画が成立するように、こちらがアプローチしていきました。「西川監督作品=笠松」と言っても過言ではないほどだと思いますので、VFXは笠松さんの撮影ありきで進めました。
Q:驚いたのが、昔の電車が通る高架のシーンです。有楽町あたりの設定だと思いますが、闇市があって電車が通るショットが合成なのは分かります。しかし、あの闇市をロケではなくスタジオセットで撮影していたことには驚きました。スタジオ撮影かロケセットかの判断はどのように決まったのでしょうか。
上田:そこは監督の判断ですね。今回は子どもが主役の作品なので、暑い時期に夜遅くまで屋外で撮影するのは体力的に厳しいだろうという懸念が当初からありました。そのため、闇市のシーンはスタジオセットで組みたいという要望が最初から決まっていました。
また、そのカットに関して言えば、もとから「闇市のシーンのどこかで電車は走らせたいね」という話はあったのですが、シーンや場所は特に決まっていませんでした。撮影当日の朝、笠松さんが引きの画を作っていた時に、「監督、ここに電車を走らせませんか」という話になり、急遽パンダウンで撮ってもらったシーンでした。
Q:スタジオ内で太陽光に見立てた照明を当てて撮影されていると思いますが、合成する際にはVFX側でプラスアルファの色味や光の補完は行っているのでしょうか。
上田:現場で作られた照明を活かしつつも、そのままでは背景と馴染まない部分もあるので、VFX側でコントロールして調整しています。画面設計の大部分はこちらに任せていただきましたが、合成のチェックには笠松さんにも来ていただきました。カラーグレーディング(色調補正)の作業には私たちVFXチームも立ち会い、お互いに気になる部分をすり合わせながら画を作り上げていきました。

『わたしの知らない子どもたち』メイキングシーン ©︎2026 K2 Pictures・AOI Pro.
Q:作業の順番としては、オフライン編集(仮編集)でカットがすべて決まり、ピクチャーロック(編集完了)した上で、本格的なVFX作業を進めていくわけですよね。
上田:基本的にはその流れです。ただ、電車のカットなどは、画面のどこからどこまで電車を走らせるかというタイミングによって、編集の尺を微調整してもらうこともありました。編集はかなりやりづらかったと思います。上野駅のシーンなどは合成前のグリーンバックがほとんどだったので。
Q:イメージが掴みづらい中での編集だったと。
上田:そうですね。全部グリーンバックの状態で編集していたので、監督も「上野駅が一番不安だった」と言っていました。
Q:上野駅のシーンは、合成だとは分かりませんでした。
上田:メイキング映像を見るとよく分かりますが、「実際のセットはこんなに狭いんだ」と驚かれると思います。制作部も「このスペースで撮れますか?」と心配するほど、ミニマムなセットで最大限の上野駅を表現しようという試みでした。撮影後にはVFXチームで今の上野駅を改めてロケハンして、スタッフを実際に立たせてアングル検証を行いました。どのような見え方になるか身体に感覚を馴染ませるような、チーム全員の共通認識を作る作業でした。
Q:撮影で使用したカメラレンズのミリ数といった技術情報も、すべてVFXチームにも共有されていたのでしょうか。
上田:もちろんです。レンズのミリ数だけでなく、笠松さんが現場でどのようなフィルターを使用しているかもすべて把握し、CG上でそれを再現しています。現場で「ここはフィルター薄めで0.2です」「ここは0.4です」といった情報を逐一ヒアリングして共有していました。