フランスアニメの未来はそこまで明るくない
Q:『ベルヴィル・ランデブー』でも自転車の車輪が象徴的に使われましたが、今回も要所で“円を描いて回る”アイテムが出てきます。
ショメ:パニョルの人生哲学は、ニーチェの「永劫回帰」に深く根づいています。世界や人生には始まりも終わりもなく、同じ内容が無限に繰り返されるという概念です。輪廻転生とは違う“サイクル(循環)”で、周囲の人との出会いと別れや、自然界のすべてが繰り返しで成り立っている。その意味でサイクルをメタファー的にあちこちで表現してみました。
Q:今年のアカデミー賞では長編アニメ映画部門に『ARCO/アルコ』(25)、『アメリと雨の物語』(25)と、フランスが関わった作品が2本ノミネートされました。フランスのアニメーション作家の第一人者として、現在のフランスにおけるアニメの活況を実感していますか。
ショメ:どうでしょうか。たとえば日本のアニメには、根底にある日本文化を感じ取ることができます。しかしこのところ話題になるフランスのアニメ作品が、文化に根ざしているかは、はなはだ疑問です。たとえばフランスでは、アニメーションを専門に学ぶ学校に3年通っても、生徒たちの作品にはひどい代物が多い。教える側にも問題があり、実写映像を下手な手法で絵にしたかのようで、今後の人材は乏しいと言わざるを得ません。彼らにとってアニメーションとは、単に“動く絵”なんです。芸術の本質が忘れ去られている気がします。

『マルセル&ムッシュ・パニョル』© 2025 WHAT THE PROD - MEDIAWAN KIDS & FAMILY CINÉMA – BIDIBUL PRODUCTIONS - WALKING THE DOG
Q:すでに次回作の準備に入っているのですか。
ショメ:はい。次は『ベルヴィル・ランデブー』の新作です。私自身が絵コンテを描き、すでに制作が進んでいます。前作から25年近く経ちましたが、やはりクレイジーな内容。あの長身の三つ子の女性たちだけが今回も登場します。
Q:『マルセル&ムッシュ・パニョル』のようにセリフが多い作品を今後も作る予定は?
ショメ:初めてトーキーに挑戦したわけですが、もう二度とやらないかもしれません。演出のアプローチがまったく違ったし、声の演技への向き合い方に苦心しましたから。改めてサイレントの方が普遍的作品が生まれる可能性が高いと感じました。世界中のどこで上映しても“翻訳”が不要でしょ。たとえばフランスを舞台にした作品で、マルセイユの人のアクセントや方言を、フランス語がわからない人にどう表現するか。とても厄介な問題です。今回もパニョルの20代から60代までを描いていますが、年齢や時代背景に合わせた人物や衣装の変化など、細心の注意を払う部分がたくさんありました。そこに集中したうえでセリフにまでこだわるのは至難の業。とはいえ映像と音楽だけのサイレント作品にも戻りたくないし、今は迷っているところです。

監督/脚本/キャラクターデザイン/ストーリーボード:シルヴァン・ショメ
アングレームの欧州映像大学(École Supérieure de l'Image)で学んだ後、初のコミック作品『Le Secret des libellules』(Futuropolis刊)を出版。次いでニコラ・ド・クレシーとの共作で、ヴィクトル・ユゴーの処女小説を翻案した『Bug-Jargal』を発表した。その後、ユベール・シュヴィヤール(Hubert Chevillard)が作画を担当した『Le Pont dans la vase』(Glénat刊)の脚本を執筆。ニコラ・ド・クレシーと再び組んだ『レオン・ラ・カム』(Casterman刊)では、ゴシニ賞およびアングレーム国際漫画祭のグランプリを受賞した。アニメーション映画界へ転身後、短編映画『老婦人とハト』の脚本・監督を務める。同作はBAFTA(英国アカデミー賞)やアヌシー国際アニメーション映画祭のグランプリを受賞したほか、アカデミー賞にもノミネートされ、数々の栄誉に輝いた。2003年、初の長編アニメーション『ベルヴィル・ランデブー』が世界的な批評家・観客の双方で成功を収め、オスカー2部門(長編アニメーション賞、歌曲賞)にノミネートされた。2006年にはオムニバス映画『パリ、ジュテーム』の第7区エピソードを監督。2010年、ジャック・タチの未制作脚本を翻案・監督・音楽まで手掛けた長編アニメーション『イリュージョニスト』を発表。同作はヨーロッパ映画賞を受賞し、ゴールデングローブ賞とオスカーの長編アニメーション賞にノミネート、セザール賞では最優秀アニメーション映画賞を受賞した。その後、クローディー・オサール製作による自身初の実写映画『ぼくを探しに』を監督した。再びアニメーションに戻り、本作の脚本・監督に着手。並行して、ストロマエのミュージックビデオ『Carmen』や、マット・グレイニングからの依頼による『ザ・シンプソンズ』シーズン25の「カウチギャグ」、さらにトッド・フィリップス監督作『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』の冒頭シーンを手掛けるなど、多様なアーティストとコラボレーションを行っている。
取材・文:斉藤博昭
1997年にフリーとなり、映画誌、劇場パンフレット、映画サイトなどさまざまな媒体に映画レビュー、インタビュー記事を寄稿。Yahoo!ニュースでコラムを随時更新中。クリティックス・チョイス・アワードに投票する同協会(CCA)会員。
『マルセル&ムッシュ・パニョル』
11月6日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次ロードショー
配給:クロックワークス
© 2025 WHAT THE PROD - MEDIAWAN KIDS & FAMILY CINÉMA – BIDIBUL PRODUCTIONS - WALKING THE DOG