1. CINEMORE(シネモア)
  2. NEWS/特集
  3. 『太陽を盗んだ男』を放った、ゴジと呼ばれた男【そのとき映画は誕生した Vol.4 中編】
『太陽を盗んだ男』を放った、ゴジと呼ばれた男【そのとき映画は誕生した Vol.4 中編】

©1979 TOHO CO., LTD. / Tristone Entertainment, Inc.

『太陽を盗んだ男』を放った、ゴジと呼ばれた男【そのとき映画は誕生した Vol.4 中編】

PAGES


前編はこちらから


※本記事は物語の詳細に触れているため、映画未見の方はご注意ください。


Index


脚本『笑う原爆』の全貌



 1977年6月に企画がスタートした長谷川和彦の第2回監督作品となる原爆映画は、1979年1月に準備稿となる脚本が印刷された。この時点で付けられた題名『笑う原爆』は、警察小説マルティン・ベックシリーズの『笑う警官』からインスパイアされたものだった。


 脚本『笑う原爆』と、映画『太陽を盗んだ男』には、どれほどの差異があるのか。一見して分かるのが分量である。〈電話帳のような台本〉と関係者たちが揶揄する『笑う原爆』の全シーン数は297。『太陽を盗んだ男』の最終稿は190シーンである。1シーン1分とすれば、『笑う原爆』は、上映時間5時間近くになる。


 以下、〈脚本〉と書いてあるものは『笑う原爆』、〈映画〉は完成した『太陽を盗んだ男』を指す。


 脚本の冒頭は東海村の原発を見下ろす城戸誠の姿。そこから中学の冴えない理科教師としての日常を映し出すまでは映画と変わらないが、脚本には教師の日常が多く書き込まれている。同僚教師から城戸を担任から外すという話や、野球部の顧問をしていたら厳しすぎて部員が5人になってしまい部を潰してしまった話、ずっと前に別れた妻子がいるという噂がオフの声で聞こえてくる。


 老人に変装した城戸が交番を襲撃するくだりも、脚本では巡査の腰からベルトごと拳銃を強奪するくだりが書き込まれており、襲撃シーンの意味を明解に示している。脚本にはその後、拳銃を強奪した老人が、夜道をスキップしながら歩き、やがて変装をむしり取って、城戸の姿となって疾走すると指定されている。この場面には、「『サムライ』がファンファーレのように鳴り渡ったりするかもしれない」とも書かれており(1978年1月リリース『サムライ』の歌詞にはピストルが出てくる)、この作品の軽妙な雰囲気を強調する演出として考案されたようだ。


 続いて、中学の遠足を城戸が引率するシーン。皇居広場で老人によるバスジャックに遭遇し、城戸は山下警部と出会う。城戸が好敵手を見つけることになる重要な場面だが、映画にはない場面が脚本に存在する。この遠足では、東海村の原子力発電所を見学するのだ。なぜ城戸が原発の内部構造を熟知しているのかという批判が映画にはあったが、脚本段階では、事前調査を遠足にまぎれて行う設定になっていたわけだ。


 原発内のシーンでは城戸が熱心にメモを取りながら見て回り、立入禁止と書かれた廊下の奥について尋ねると、ガイドが「あそこは再処理用プルトニウムの貯蔵庫で……」と口を滑らす場面や、帰り際に「また、いつでもどうぞ」とガイドから声をかけられた城戸が「ええ、近いうちにぜひ」と言いながら生徒を連れて正門を出る場面もあった。


 さて、いよいよ城戸が原発に侵入してプルトニウムを強奪するくだりだが、映画では潜入する様子がスチール・モンタージュで描かれ、あっという間にプルトニウム貯蔵室にたどり着く。その呆気なさが、映画の荒唐無稽さを象徴する場面ともなったが、脚本ではこのくだりが丁寧に書き込まれている。


 金網を切って原発の敷地に侵入した城戸は、雨樋をつたって建物の屋上まで登る。そこに設置されたマンホール状の蓋をこじ開け、梯子をつたって機械室へ降りていく。そしてプルトニウム貯蔵室前まで来るが、ガードマンが立っており、かんたんに侵入できない。そこで精巧に出来たネズミの玩具をリモコンで操作しながらガードマンをおびき寄せて失神させ、彼が持つ鍵束の中から合うものを探す。このとき、鍵束が外れないので、ガードマンを引きずって入口前まで運び、貯蔵室の鍵をあけて中へと入っていく。


 強奪後については、映画では、プルトニウムを抱えた城戸が海岸線を走る姿に授業中の彼の声を重ねて見せることで、一瞬、これは現実ではなかったかもしれないと観客に思わせる、一種のはぐらかしが行われていた(以降も、意図的にこうした見せ方が登場する)。脚本では、この後の動きをきちんと描いている。早朝の水戸駅へゴルフバックを肩にかけて現れた城戸は、満員電車に乗って都心の自宅へ帰っていく。ゴルフバックの中に何が隠されているかは言うまでもない。


 こうして脚本にのみ存在する場面を見ていくと、『ルパン三世』のようなコミカルな犯罪劇として描こうとしていたことがわかる。ただし、細部を追い求めるほど、日本映画では不可能な規模の映画になっていくのだが。



PAGES

この記事をシェア

メールマガジン登録
counter
  1. CINEMORE(シネモア)
  2. NEWS/特集
  3. 『太陽を盗んだ男』を放った、ゴジと呼ばれた男【そのとき映画は誕生した Vol.4 中編】