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『戦場のメリークリスマス』大島渚×デヴィッド・ボウイ×ビートたけし×坂本龍一 異色の戦争映画が実現するまでの軌跡 前編

©大島渚プロダクション

『戦場のメリークリスマス』大島渚×デヴィッド・ボウイ×ビートたけし×坂本龍一 異色の戦争映画が実現するまでの軌跡 前編

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『戦場のメリークリスマス』あらすじ

1942年戦時中のジャワ島、日本軍の俘虜収容所。そこには粗暴な軍曹ハラと日本語が流暢な英国軍中佐ロレンス、そして収容所長のヨノイ大尉がいた。そこへある日、英国軍少佐セリアズが連れてこられ、ヨノイはその反抗的な態度に悩まされながらも、彼に魅せられてゆく。



 毎年クリスマスになると「Merry Christmas Mr.Lawrence」が聴こえてくる。言わずと知れた大島渚監督の代表作『戦場のメリークリスマス』のために坂本龍一が作曲したものだ。ジャワの日本軍捕虜収容所を舞台に、捕虜への虐待など、これまで日本の戦争映画が避けてきた〈敵〉の存在に目を背けることなく、深い友情でつながる姿を、デヴィッド・ボウイ、坂本龍一、ビートたけしという異色のキャスティングでドライに描いた本作。公開から38年以上を経た今も根強い人気をほこっており、2021年には『戦場のメリークリスマス 4K修復版』が公開され、予想外のヒットとなったことも記憶に新しい。


 しかし、この映画が生まれるまでには、大島の監督デビュー以降、5年という最長のブランクが生じることになった。当時、テレビへひっきりなしに顔を出す大島に、「映画を撮るヒマがないのだろう?」と揶揄する声もあったが、『戦メリ』(この略称は大島が求めたものである)が実現するまでには、何度となく製作中止の危機があり、いくつものトラブルが押し寄せる中で、ようやく完成へとたどり着いた。その5年の軌跡を追いかけることで、大島渚が本作で何を描こうとし、なぜ、『戦メリ』が今も古びることなく輝き続けるのか、その答えも見えてくるだろう。なお本稿は前・中・後編の3部に分けてお届けする。


『戦場のメリークリスマス』予告


Index


カンヌ映画祭監督賞『愛の亡霊』の次回作は⁉︎



 1983年5月28日に公開された『戦場のメリークリスマス』は、大島渚の前作『愛の亡霊』(78)から5年ぶりの新作となった。1960年代は1年に3本撮ったこともある大島も、70年代は2〜3年に1本へとペースダウンしていたが、『愛の亡霊』がカンヌ映画祭監督賞を受賞し、名実ともに世界的な監督となり、次回作の動向には注目が集まっていた。カンヌ映画祭から凱旋帰国した大島は、会見で次回作を問われると、「純然たる日本映画か、外国ですべて外国俳優を使ってやるかのどちらかにしたい」(「日刊スポーツ」78年6月7日)と答えた。


 数年前から、大島には次回作に向けた腹案があった。1本は武田泰淳が原作の「わが子キリスト」。キリストの父がローマ兵士であるという独自解釈の異色作だが、大島は武田からも映画化の許諾を得ており、「超豪華版の、スーパー・プロダクションで、大娯楽映画として私はつくるんです」(「文藝」76年12月号)と、泰淳の妻である武田百合子に告げたこともあったが、まさにこれこそ〈外国ですべて外国俳優を使ってやる〉作品に相応しいが、規模からして、そう簡単に実現できる企画ではない。


 もう1本は、勝新太郎との企画である。1977年4月17日の「スポーツニッポン」は、勝の今後の映画製作について、「ギャング映画を……と、大島渚監督と再三話し合っており、秋には久しぶりに、スクリーンに登場したい意向」と報じている。これ以外にも、『からゆきさん』『鬼熊』など、70年代半ばから映画化しようとしていた企画もペンディングになっていたが、これらは『愛のコリーダ』と『愛の亡霊』へとそれぞれ昇華されており、今さらという感もあった。


 ところが1979年、大島は突如として〈純然たる日本映画〉――それも、これまで抱えていた企画ではなく、全く新たに東映の秋の大作『日本の黒幕(フィクサー)』を撮ると発表する。実録路線の後、東映は『日本の首領』シリーズ(77〜78)、『日本の仁義』(77)などの大作やくざ映画を連作していたが、『日本の黒幕』は、ロッキード事件をモデルに、フィクサーと少年テロリストが暗躍する物語だ。性を主題にした似た傾向の作品が続いていた大島にとっては意外な企画にも思えるが、ここらでガラッと作風を変えたいという気持ちもあったのではないだろうか。




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