「浅草キッド」はビートたけしと、その師匠である伝説の浅草芸人・深見千三郎の交流を描いた不朽の青春小説だ。出版から30年以上経つ今も読み継がれ、テレビではドラマ化もされてきた。たけしファンにとっては正にバイブルと言える作品だろう。そんな名作が、芸人・劇団ひとりの手によってこの度映画化された。
ビートたけしへの敬愛を公言し、前作『青天の霹靂』(14)では浅草の演芸場を舞台に選んだ。そんなたけし信者である彼が、本作の主役の一人、深見千三郎にキャスティングしたのは大泉洋だった。原作の愛読者なら、この配役に違和感を覚えるかもしれない。かくいう筆者も「浅草キッド」は長年の愛読書であり、正直、「大丈夫なのか?」と一抹の不安を感じていた。
しかし、作品を観ることで筆者は己の不見識を恥じることになった。大泉洋は伝説の芸人を見事に演じきり、さらに劇団ひとりの独自のキャスティング哲学、そして芸人としての人脈を駆使したリサーチが奏功し、これ以上ないと思えるほど、完全な映像化となったからだ。その舞台裏を、脚本・監督をつとめた劇団ひとりに、たっぷりと語ってもらった。
Index
- 「たけし信者」の代表として映像化
- 劇団ひとり監督の熱望によって映画化が実現
- 伝説の芸人、深見千三郎のキャラクター
- イメージと違うキャスティングの妙
- さびれていく浅草を再現
- 深見師匠を演じた大泉洋の色気
「たけし信者」の代表として映像化
Q:ずっと憧れ続けた、ビートたけしさんの物語を遂に映画化されました。これから世界に向けて配信されるわけですが、今のお気持ちはいかがですか?(※インタビューは11月下旬収録)
ひとり:本音を言うと、もう身内だけで観て終わりにしたいくらいなんですよね(笑)。今はまだ配信してないから、スタッフだけで作品を観て「良い作品が出来たね!」「いやあ、面白かったですよ」って身内が馴れ合いで褒めているわけですよね(笑)。やっぱり、その時点が気持ちのピーク。自分では本当に満足のいく作品なので、胸を張って送り出せるんですが、これからは辛辣な意見も出てくるわけですから、怖いですよね。
僕にとって、たけしさんはずっと憧れの存在ですが、もちろん僕だけに限らず、お笑い芸人の中には、ビートたけしさんを神様だと崇めている人はたくさんいるわけです。しかも芸人に限らず、たけしさんに影響を受けた人は、本当に多いと思います。僕はそういう「たけし信者」を代表して、『浅草キッド』を撮らせてもらったと思っているので、その人たちがこの作品に満足してくれるのか、すごく不安ですね。
Netflix映画『浅草キッド』12月9日(木)より全世界独占配信
Q:Netflixでの配信なので、映画館に普段あまり行かない方たちも、作品に触れる機会が増えると思いますが。
ひとり:Netflixはすごく好きなんですけど、『浅草キッド』が Netflixらしい作品かと言われると、そうじゃないんですよね。デスゲームでもないですし、テロリストもゾンビも出てこない(笑)。そういう意味で言うと、Netflixユーザーに合う作品なのか僕にはちょっとわからないです。でも他の作品と毛色が違うので、逆に新鮮な気持ちで見てもらえるかもなという、ポジティブな捉え方をしています。
Q:11月にNetflixのラインナップ発表会(Netflix Festival Japan 2021)があり、そこで『浅草キッド』を含む、様々な作品が発表され、出演者やクリエイターが一堂に会しました。参加されていかがでしたか?
ひとり:もうお互いにバチバチですよ、舞台裏ではね(笑)。今期ここで、しのぎを削るわけですから「ウチが一番だ!」みたいな感じですよ。まあ、みんな笑顔で話していましたけど「負けるもんか」って言う雰囲気を僕は感じました。
『Netflix Festival Japan 2021』グループ特別写真