深見師匠を演じた大泉洋の色気
Q:本作の見所の一つは、伝説の芸人と言われた深見千三郎さんのコントを、大泉さんが演じるシーンです。当時のコントをどんな風に演出されたのでしょうか。
ひとり:深見師匠のコントについては、たけしさんにも色々聞いたんですが、萩本欽一さんのお話もとても参考になりました。僕はコロナ禍になる前は大将(萩本欽一さん)に年に2、3回お仕事でお会いする機会があったんです。その時はもう『浅草キッド』の脚本に取り掛かっていたので、とにかく当時のフランス座のこととか、深見師匠について取材しました。
深見師匠は舞台の上で弟子にダメ出しをするっていう話が有名なんですが、あれはそういう「ネタ」なんですよね。だから大将も、そのイズムを受け継いでいて、コント55号の時にも「だめだよ、そんなんじゃ!」ってネタの中でやっていた。それが分かったんです。
以前テレビで「浅草キッド」をドラマ化して、深見師匠のコントも再現していたんですけど、深見さんが「お前、そのまま動くんじゃねえ!」とか「もっと前に来んだよ!」って怒っている。僕はそこに違和感があったんです。そんなことをしても、お客さんは笑わないのに、天才芸人と言われる人が舞台でそんなことをするかな?って。だから大将から話を聞いて「あ、そういう事なんだ」って腑に落ちました。
当時のネタは大まかな筋があるだけで明確なセリフが決まっていない。だから深見師匠はアドリブで相手に無茶ぶりして、笑いを取っていたんだって僕は解釈しました。そこからは脚本が凄く書きやすくなりましたね。ただ、当時のコントの台本もいっぱい残っているんですが、それをそのままやるのは難しかったんです。内容的にもかなり過激で下ネタが多くて、天才芸人っぽくない台本なんですよね(笑)。
Netflix映画『浅草キッド』12月9日(木)より全世界独占配信
Q:コントのシーンでは、ひとり監督から大泉さんに色々リクエストされたのでしょうか? こういう風に演じて欲しいとか。
ひとり:「大泉さんは、どうしたらやりやすいですか?」って僕から聞きました。最初は台本通りに現場で演じてもらったけど、ちょっとイマイチだったんです。それで「どうしたらいいですか?」って聞いたら、「こういう風に直してくれた方がやりやすいな」って言ってくれて。それで昼飯休憩をとってもらって、その間に僕が台本を書き直して昼飯後にやってもらったんです。そうしたらすごく良くなりました。やっぱり大泉さんは「笑い」を分かっている人だから頼りになるんですよ。
Q:ひとり監督から大泉さんに伝えた、深見師匠のエッセンスはありますか?
ひとり:とにかく本当に句読点のように「バカヤロー」って言う人だったらしいんですけど、愛情のある「馬鹿野郎」もあるし、腹が立っている「バカヤロー」もある。それを、うまく使い分けてください、ってお願いしました。
でも僕から大泉さんには、ほとんど NGを 出してないんじゃないかな。とにかくカッコよくってね。本当におしゃれで、不器用で、優しくって、色気たっぷりでね。「こりゃ、この人売れるな」って思いました。期待されて、それ以上の仕事をして、信頼を勝ち得て、どんどん仕事が増えていく。僕は普段は出役なので、見習う点が多かったです。
そんな大泉さんが演じてくれたので、天国で深見師匠も納得してくれているんじゃないかと思います。
脚本・監督:劇団ひとり
1977年、千葉県生まれ。1993年にコンビとしてデビュー後、2000年より劇団ひとりとして活動をスタート。数々のバラエティ番組で活躍する一方、2006年に初の小説「陰日向に咲く」(幻冬社)を発売。100万部のベストセラーとなり、直木賞、本屋大賞にもノミネートされる。2014年公開、初監督映画『青天の霹靂』で第6回TAMA映画賞・最優秀新人監督賞、第24回東京スポーツ映画大賞新人賞受賞。また2019年にはドラマ「べしゃり暮らし」(EX)全8話の演出を手がける。
取材・文: 稲垣哲也
TVディレクター。マンガや映画のクリエイターの妄執を描くドキュメンタリー企画の実現が個人的テーマ。過去に演出した番組には『劇画ゴッドファーザー マンガに革命を起こした男』(WOWOW)『たけし誕生 オイラの師匠と浅草』(NHK)『師弟物語~人生を変えた出会い~【田中将大×野村克也】』(NHK BSプレミアム)。
Netflix映画『浅草キッド』
12月9日(木)より全世界独占配信