さびれていく浅草を再現
Q:かつて娯楽の中心だった浅草は今も独特の「空気」をまとった街だと思います。本作で再現した昭和40年代の浅草には、その「空気」を感じました。当時の浅草を再現するにあたって、どんな点に気を使いましたか?
ひとり:僕は浅草という街には、本当に縁もゆかりもないんですが、浅草に魅力を感じているのは、全ては「浅草キッド」があるからだと思います。ショービジネスに携わる人たちが山ほどいるけど、くすぶっている。でもいつか日の目を見るんだって頑張って。その不器用で素直じゃない人たちの世界観が、とにかく好きですね。
僕は小説を今まで2冊書いていますが、1冊目は浅草のストリップ劇場が出てきて、2冊目は浅草の演芸場が出てきます。結局それも全部「浅草キッド」に影響されてやっていることですよね。「浅草のこと、何か知ってるのか?」って言われると、僕は読んだり聞いたりしただけで、実際にその時代を経験しているわけじゃない。だから、頭の中でどんどん美化していると思います。もしかしたらあの時代の浅草を経験している人は「こんなもんじゃねーよ、浅草は」って思うかもしれません。
Netflix映画『浅草キッド』12月9日(木)より全世界独占配信
だから今回、浅草の街並みを再現することに、最初はあまりモチベーションがなかったんです。でもプロデューサー陣から「やっぱり浅草の街をしっかり再現したほうが、映像として迫力がある」って言われて。じゃあ、やるなら徹底的にやるかと。ただ多少アレンジしている所はあるんです。例えばフランス座の外壁にステンドグラスを入れたのは僕が勝手にやっています。当時そんな物はなくて、実際はもうちょっと味気ない外壁だったんです。それこそ僕の頭の中にある浅草像をもとに、作り変えちゃっていますね。
あと気をつけた点で言うと、「街があまり賑わっている感じにしない」っていうことです。それは僕の1作目の『青天の霹靂』を観た高田文夫先生の意見を参考にしています。ちょうど「浅草キッド」と同時代の浅草を舞台にした映画だったんですが、「当時の浅草ってあんなに賑やかじゃねーぞ。あの時代、浅草はもう終わってるからね」って言われたんです。だから、『浅草キッド』を観た人は「あれ?もうちょっと通行人とか、いた方がいいんじゃないの」って思われるかもしれないです。でもそれは人を極力少なくして、さびれた浅草にした結果なんです。