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『戦場のメリークリスマス』大島渚×デヴィッド・ボウイ×ビートたけし×坂本龍一 異色の戦争映画が実現するまでの軌跡 後編

©大島渚プロダクション

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ラロトンガ島開戦記



 フランス領のポリネシアとアメリカ領のサモアの中間地点を南下したところに、ニュージーランドと自由連合を結ぶ15の島々――クック諸島がある。首都アバルアのあるラロトンガ島は、切り立った山を囲むジャングルと、島を囲む美しい白浜が織りなす周囲約32キロの火山島である。大島は7月31日に日本を発ち、オークランドで撮影機材のチェックを行っていた撮影監督の成島東一郎と合流して、8月9日にラロトンガ島へ到着した。撮影2週間前になって初めて現地に足を踏み入れたが、実現までに長い時間がかかった割に、慌ただしく撮影準備が始まるのが『戦メリ』の特徴でもあった。


 海外ロケで手間がかかるのは、日本から運ぶ機材や小道具の運搬にある。撮影機材に関しては、オーストラリアやニュージーランドからレンタルすることもあったが、日本兵の軍服や備品などは日本から確実に数を揃えて送らなければ、撮影現場で立ち往生することになる。それを見越して、大島は有能な助監督を京都から呼び寄せていた。大映京都撮影所撮出身の中畑⽾人である。明治時代を舞台にした『愛の亡霊』では衣装、小道具などの準備を的確にこなしていたベテラン助監督で、その能力を本作にも発揮してもらおうというわけだ。大島は松竹大船撮影所出身ながらインディペンデントの映画作りにも精通し、スタッフ・俳優にも未経験者を入れることを好んだが、プロフェッショナルな存在を否定しているわけではなく、むしろ要となる箇所には、ベテランを配置することも怠らなかった。


 ラロトンガ島での宿泊施設は、唯一のホテルとなるラロトンガン・ホテル。鬱蒼と生い茂るジャングルを背景に、一戸建ての家屋が並ぶホテルである。ここにスタッフ・キャスト全員が泊まり、助手クラスに至るまで全員に個室が与えられた。それもあって海外のスタッフ、キャストは家族連れで撮影に参加する者も多く、日本の撮影システムとの違いを大島は実感することになる。


 やがて、主要キャストたちも到着し始める。最初にやって来たのは、撮影10日前に来た俘虜長役のジャック・トンプソン。続いてロレンス役のトム・コンティ、そして最後にデヴィッド・ボウイ。大島は、ボウイがどういうスタイルで島にやって来るのか、密かに好奇な気持ちを抱いていた。スターらしくお付きの者を多数引き連れてやって来るのではないかと思っていると、ボウイはアシスタントの女性を1人だけ連れて、わずかな荷物と共に軽装でやって来た。この日以降、日本人キャストが到着するまでの約1週間、ボウイ、コンティ、トンプソンの3人と大島は、毎日1、2時間ずつ集まっては、それぞれの役についてディスカッションし、脚本を読み合わせた。夕方になるとホテルのプールサイドバーにいつの間にか集まり、スタッフもキャストも分け隔てなく話し、やがて、それぞれがその日のパートナーと夕食を取りに散っていく。こうした時間の多幸感を前にして、大島はある決断を下した。


 それは、撮影現場ならびにホテルでの取材を一切シャットアウトするというものだった。『愛のコリーダ』のようなセンシティブな撮影を除けば、大島はデビュー以来、自分の撮影現場にマスコミの取材が入ることを歓迎していた。時間のある限り語り、取材にも便宜を図った。それは『戦メリ』でも同様で、当初は日本からジャーナリストが大挙して押し寄せることになっていた。そればかりか、出資元の1社であるテレビ朝日からは特別番組を製作するために撮影スタッフが派遣されることになっていた。


 しかし、『コミック雑誌なんかいらない!』(86)に描かれていたような80年代の過熱する日本のマスコミ取材がボウイたちに向けられたら、ホテルで過ごす優雅な時間は潰えてしまうに違いない。ビートたけし、坂本龍一が来れば、いっそう取材が白熱することは目に見えていた。そこで大島は、例外を一切認めない全面取材拒否を告げたのだ。もっとも、映画公開前に特別番組を放送する予定のテレビ朝日にとっては、メイキング映像が撮れないまま番組作りを余儀なくされたのだが(後に緩和されて、ビートたけしの出番が終わった後から、特番ならびに宣材用の撮影が行われた)。




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