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『戦場のメリークリスマス』大島渚×デヴィッド・ボウイ×ビートたけし×坂本龍一 異色の戦争映画が実現するまでの軌跡 後編

©大島渚プロダクション

『戦場のメリークリスマス』大島渚×デヴィッド・ボウイ×ビートたけし×坂本龍一 異色の戦争映画が実現するまでの軌跡 後編

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ラロトンガからオークランドへ〜クランクアップ



 9月17日、当初は2日かかる予定だった6シーンを一気に撮り切り、23日間にわたるラロトンガ島でのロケが全て終わった。この後はオークランドへとロケ地が移ることになる。なお、行方不明のKを捜索していた妻は、夫を見つけ出すことが出来ないまま後ろ髪を引かれる思いでこの日、ラロトンガ島を離れた。「週刊平凡」(84年3月23日号)は、そのときの妻の心情を「思わず涙があふれてきたのは、捜索が無為に終わって帰国するとき、外人スタッフの奥さんたちが約20万円の義援金をこぞってカンパしてくれたことだった」と記している。


 9月25日から、オークランドでのロケがスタート。オークランド市議会場を使用した法廷場面、セリアズの回想場面に登場する宿舎などがまとめて撮られた。内田裕也、大島映画に初期作から出演してきた戸浦六宏らも、ここからの参加となる。


 9月30日の夜は、戦争が終わり、収監されたハラをロレンスが訪ねる終盤のシーン。車が刑務所の前に止まってロレンスが降り、建物内に入るロングショットの撮影である。2回テイクを重ねてOKが出る。ロレンス役のトム・コンティは、これで全ての撮影が終わった。本職の俳優がメインキャストにいない中で、唯一のプロの俳優として緻密な演技で彼らを支えた。感覚的な彼らの演技と均衡が取れないのではないかと心配されたが、トムは柔軟に彼らのリズムに乗り、必要に応じて演技の緩急をつけることで、画面の中でボウイを、坂本を、そしてたけしを輝かせた。


 もう残りの撮影はわずかとなり、メインキャストたちが次々にオールアップを迎える。10月3日、シーン22のセリアズが処刑されるがフェイクだったという場面。オークランド駅構内を処刑場に見立て、両側にテントが張られ、巨大な丸太が画面の中央に吊り下げられた抽象的な美術は、戸田重昌の得意とするところだ。その丸太から伸びた鎖にセリアズは両手を縛られている。かつて、『絞死刑』で死刑場のセットを映画館の跡地に作り上げた戸田は、今度は駅舎のアーチ状の構造を活かしつつ、見事に映画的な処刑場を再構築してみせた。銃声の後、硝煙の奥から坂本がボウイに向かって歩いてくるカットで坂本をはじめ日本人キャストの出番は全て終了。



『戦場のメリークリスマス』©大島渚プロダクション


 ボウイのラストカットの撮影は10月6日。生き埋めにされて、生と死の朦朧状態に陥ったセリアズが見る幻想場面である。オークランド市郊外にある邸宅の庭園を借り、藤棚の中から歌う弟と共に軍服姿のセリアズが現れ、自宅に向かっていく。このカットでデヴィッド・ボウイは全カットを撮り終え、その日の夜にニューヨークへと帰っていった。


 そして翌7日、少年時代のセリアズと弟のシーンが2つ撮影され、教会で歌う場面をキャメラが滑らかな横移動で捉えたカットが本番一回でOKとなり、全カットを撮り終えた。8月23日にクランクインした『戦メリ』は、10月7日に45日間の海外ロケーション、撮影実数34日でクランクアップを迎えた。フィルムは約3万7千フィートが使用され、撮影前に大島が使い切れないと言ったとおり、用意されていた5万フィートに届くことなく撮り終えた。


 夜、打ち上げで大島はこう挨拶した。“Tonight, I am The Most Happy man In The World”




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