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『戦場のメリークリスマス』大島渚×デヴィッド・ボウイ×ビートたけし×坂本龍一 異色の戦争映画が実現するまでの軌跡 後編

©大島渚プロダクション

『戦場のメリークリスマス』大島渚×デヴィッド・ボウイ×ビートたけし×坂本龍一 異色の戦争映画が実現するまでの軌跡 後編

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キャメラが捉えた一瞬の表情



 撮影1週目の最終日となる8月28日からは、ビートたけし、坂本龍一が参加。まず、シーン26「収容所の門」での撮影となり、続いてシーン25のハラの宿舎で、たけし演じるハラ軍曹と、ロレンス(トム・コンティ)との会話場面の撮影が行われた。3分近くを1カットで撮影することになり、綿密にテストを繰り返した末に2回の本番でOKとなった。飛行機から降り立って数時間後には、もうこの収容所で長らく従事してきた軍人の顔となって、たけしはトム・コンティと堂々と渡り合ってみせたのだ。


 30日には、将校宿舎から司令部に向けて閲兵場を横断して歩くタイトルバックが撮られた。ハラが先頭を歩き、その後ろをロレンスたちがついていくロングショットのために30メートルほどのレールが敷かれ、キャメラは滑らかな横移動に続いてパンしながらハラたちを追った。壮大な収容所の全貌が明らかになる印象的なカットだが、本番では収容所の門が閉じなくなり、スタッフが本番を待つよう大島に伝えると、「そんなもの待てるか、開けておけ!」と、怒号が響いた。大島は何よりも、その瞬間のテンションを求めるため、通常の映画作りにおける段取りや約束事を意図的に無視することがあった。



『戦場のメリークリスマス』©大島渚プロダクション


 後日、シーン4の処刑場で、坂本演じるヨノイが初めて登場する場面でも、白馬に乗って現れることになっていたが、本番になると馬が照明に動揺して思うように動かなくなると、大島は「馬などいらん!」と、即座に歩いて登場するよう変更を指示した。成島も前のカットとのつながりを気に留めることなく、その瞬間瞬間で力強い画を優先するため、外国人スタッフが戸惑う場面も多かったが、『戦メリ』が映像の美しさもさることながら、個々の出演者たちが一瞬見せた表情を見事に捉えた顔の映画となったのは、大島と成島が組んだことで生み出されたのではないだろうか。


 この日は、後々までビートたけしがネタにしたシーン1の将校宿舎で、ロレンスをハラが起こして連れて行く場面も撮影された。映画の冒頭を飾るファーストカットとなるトカゲの動きに合わせてキャメラが動き、そこでタイミングよくドアが開いて、ハラが入ってくる。それだけの動きが、トカゲが思うように動かないことから8テイク目でようやくOKが出たが、このときばかりは、現場のテンションを優先する大島もトカゲを待つことにしたようだ。しかし、その甲斐あって、荘重な映画の幕開けを印象づけるものになった。


 この日以降は雨にたたられ、スケジュールが狂うなかで予定を変更しつつも、たけしの出番を急ピッチで撮っていった。時には中抜きという、一方向から断片的に撮っておいてから、キャメラを反対側に向けて、また必要なところだけを抜き出して撮るという早撮りも行われたが、撮影所で育った大島にとっては何でもない職人技術だった。




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