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『戦場のメリークリスマス』大島渚×デヴィッド・ボウイ×ビートたけし×坂本龍一 異色の戦争映画が実現するまでの軌跡 前編

©大島渚プロダクション

『戦場のメリークリスマス』大島渚×デヴィッド・ボウイ×ビートたけし×坂本龍一 異色の戦争映画が実現するまでの軌跡 前編

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『戦メリ』に落ちてきた男、デヴィッド・ボウイ



 グラム・ロックの寵児として音楽ファンには日本でも知られていたデヴィッド・ボウイだが、世界的な大ヒットとなる1983年の「レッツ・ダンス」が生まれる前は、誰もが知る存在ではなかった。日本で一般に彼の存在が浸透したのは、1980年にオンエアされた宝酒造「純」のCM出演だった。



 元より親日家で、日本文化にも深い理解を持っていたボウイをセリエ役にどうかと提案したのは、大島の姪で企画当初から関わっていた臼井久仁子だった。この提案に直ぐ賛成した大島は、「純」のCMを見直し、「セリエという男のもっている精神的な強さ、貴族性、カリスマ性みたいなものからいえば、非常に向いてるんじゃないか」(「イメージフォーラム」82年10月号)と確証するに至り、ボウイに手紙と脚本を送った。大いに興味があるという電報が直ぐに届き、1980年10月、大島は半年ぶりにニューヨークを訪れる。街では前月末から公開が始まったロバート・レッドフォードの監督作『普通の人々』が話題を集めていた。


 ちょうどこのとき、ボウイはブロードウェイのブース劇場で上演中の「エレファント・マン」に出演しており、当然大島も見るつもりでいた。現地でボウイに連絡を取ると、すでにチケットは手配してあるので翌日の舞台を見てくれと言う。その対応に大島は会う前から好感触を持ったが、それよりも驚いたのは舞台で目にしたボウイの演技だった。『地球に落ちてきた男』(76)に主演していたとはいえ、大島はこの舞台を見るまで、「所詮演技についてはしろうとであると思っていた」(「キネマ旬報」81年6月下旬号)。


 これは見くびっていたわけではなく、大島は素人が好きなのである。「一に素人、二に歌うたい、三、四がなくて五に映画スター、六、七、八、九となくて十に新劇」と、若い頃から公言していたが、演技経験がない素人や新人、歌手を積極的に起用してきた。実際、デビュー作の『愛と希望の街』からして新人俳優とロカビリー歌手が主演を担い、以降も『太陽の墓場』の佐々木功、『日本春歌考』の荒木一郎、『新宿泥棒日記』(69)の横尾忠則など、大島映画の主役は、新人、歌手、素人がずらりと顔を並べる。それがダメなら飛び切りのスターが良いという大島のキャスティング思想は、遺作となった『御法度』の主役が、当初は木村拓哉が候補に上がり、結果として松田龍平のデビュー作になったところからも一貫している。



『戦場のメリークリスマス』©大島渚プロダクション


 さて、舞台上のボウイを目にした大島は、「彼が完璧な演技者」(前掲)であることに衝撃を受けて、その印象を次のように記した。


「彼の白い腕や脚や顎が異様にねじれ、心にしみとおるあの声が甲高い吃音になってひびく時、観客は象人間の悲劇に体の底から感応させられるのだった」。


 観劇の翌日に対面したボウイは、大島の映画では『絞死刑』が好きだと言い、ぜひ『戦メリ』をやりたいと告げて、たちまち具体的なスケジュールと、ダイアローグの話になった。この時にボウイが読んでいたのは、大島が書いた脚本をそのまま英訳したもので、英語の台詞としては、こなれていなかった。


 これは日本人が脚本を書いて英語圏の映画を撮る際に直面する問題で、黒澤明がハリウッド進出に挑んだ『暴走機関車』でも、黒澤映画の脚本チームが作り出した古典的な――つまりは古くさいキャラクター造形を、アメリカの実情に合わせてリライトする必要に迫られた(結果として、外国人脚本家の改訂作業で追加された描写が黒澤の不興を買うことになった)。


 ボウイは何人かリライトを行う脚本家の候補を挙げ、大島は検討を約束した。その席で、音楽をやってくれるならどうぞと大島が水を向けたが、興味を示さなかった。ボウイはあくまで俳優として『戦メリ』に参加することに惹かれていたのだ。


 こうしてデヴィッド・ボウイの出演に了解が取れたことで、『戦メリ』は大きな一歩を進めることが出来たが、実現にはまだ大きな壁が幾つも残されていた。



中編に続く!



【主要参考文献】

『「抱擁の大地」企画書』『「影の獄にて」脚本』『「戦場のメリークリスマス」脚本』『イメージフォーラム』『キネマ旬報』『シナリオ』『GOUT』『国文学』『文芸』『噂の眞相』『朝日ジャーナル』『週刊明星』『週刊平凡』『週刊現代』『週刊読売』『週刊文春』『週刊宝石』『サンデー毎日』『エコノミスト』『朝日新聞』『毎日新聞』『読売新聞』『報知新聞』『日刊スポーツ』『スポーツニッポン』『デイリースポーツ』『シネマファイル 戦場のメリークリスマス』(講談社)、『映画プロデューサーが語る ヒットの哲学』(原正人、構成 本間寛子・著、日経BP)、『「戦場のメリークリスマス」30年目の真実』(東京ニュース通信社)、『戦場のメリークリスマス』(紀伊國屋書店)、『答える!』(大島渚・著、ダゲレオ出版)、『大島渚1960』(大島渚・著、青土社)、『大島渚1968』(大島渚・著、青土社)、『戦後50年 映画100年』(大島渚・著、風媒社)、『わが封殺せしリリシズム』(大島渚・著、清流出版)、『世界が注目する 日本映画の変容』(丸山一昭・著、草思社)、『昭和の映画少年』(内藤誠・著、秀英書房)、『任侠映画伝』(俊藤浩滋 山根貞男・著、講談社)、『活動屋人生こぼれ噺』(幸田清・著、銀河出版)、『シネマの極道 映画プロデューサー一代』(日下部五朗・著、新潮文庫)、『撮る カンヌからヤミ市へ』(今村昌平・著、工作舎)、『映画愛―武藤起一インタヴュー集〈1 俳優編〉』(武藤起一・著、大栄出版) http://norisugi.com/documentary/senmeri_hiwa.html  ほか



文:モルモット吉田

1978年生。映画評論家。別名義に吉田伊知郎。『映画秘宝』『キネマ旬報』『映画芸術』『シナリオ』等に執筆。著書に『映画評論・入門!』(洋泉社)、共著に『映画監督、北野武。』(フィルムアート社)ほか



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『戦場のメリークリスマス』

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