スペシャルな描写を積み重ねたい
Q:映画は落ち着いた画でゆっくりと話が進んでいくのですが、全然飽きずにむしろ引き込まれていく印象を受けました。映画全体を構成するにあたって、気を付けていることなどはあるのでしょうか。
井樫:脚本は、ファーストシーンとクライマックスとラストシーンを最初に書いてしまうんです。一番やりたいこと、伝えたいことを最初に書いちゃって、後はその間をどう埋めるかっていう作業になるんですね。それはつまり、ワンシーン、ワンシーンを、どういう描写をしていくかっていう積み重ねなんです。その描写が良ければ、ストーリーなんてなくても見てられるって思っています。
例えば、会話のシーンを喫茶店にしちゃうのは一番楽なんですよ。喫茶店で向かい合って話すみたいな。でもそれがすごい嫌で。芝居の広がりがなくて、描写の広がりもあんまりないなと思うんです。たとえ会話のシーン一つとっても、どうスペシャルにしていくか考えて、それを積み重ねていきたいんです。とにかくそれらを積み重ねていって、あとから組み替える作業がすごく多いかもしれないですね。
Q:それは、脚本段階ですか? それとも編集段階?
井樫:どっちもですね。
Q:編集は結構時間をかけたんですか。
井樫:そうですね。時間はかけました。そして結構カットしました。脚本の段階では頭で考えてしまっているので、どうしても説明が多いのですが、実際にお芝居している映像になったときには、この表情だけで全てが伝わるっていう瞬間が必ずあるんです。そしたらもう、この余計な説明はいらないなって、バサバサ切ってしまいますね。
Q:なるほど。面白いですね。そうやって構成されている画自体も、すごく美しくて素晴らしかったです。撮影監督とはいろいろ細かく話されたのでしょうか。
井樫:はい。画については結構細かく指定させてもらいました。細かすぎて結構しんどかったですね(笑)。
Q:それは大変そうですね。それも含めてこの映画製作で一番大変だったことって何かありますか。
井樫:一番大変だったことですか。実は、諸事情で撮影が一度中断したんですよ。その時は、人生の中で一番の底辺っていうくらい、私はもうどん底でした(苦笑)。
Q:そこまでですか!?
井樫:本当にどん底でしたね。脚本を書いた時は、その時点での人生の総まとめみたいな勢いだったんで。あれ、ここで映画が出来なかったら、私の総まとめ全部オジャンか、みたいな感じでした。このままもう、映画撮れないかもしれないって。まぁでも色々あったんですが、何とか撮り切ったんです。
Q:完成できて良かったですね!
井樫:今は、完成して公開されるということで、すごくうれしいですね。
Q:では最後に、このインタビューを読んでくださった皆さんにメッセージを。
井樫:この映画は、14歳の女の子と27歳の女の人の、二人の関わり合いの話です。映画の中では突飛なシチュエーションが出てきたりするのですが、根本的にはすごく普遍的なテーマだと思っています。誰しもが好きな人に対して恋焦がれたりとか、切ない思いをしたりとか、親とうまくいかなかったりとか、そういう色んなことがあると思うんですけど、そういった何らかの感情に、少しはリンクしてくる部分があるのではないかと思っています。そこでどう感じ取ってもらえるのかなっていうのは、すごく興味深いところでもあるので、ぜひ見てもらえると嬉しいです。
監督:井樫彩(いがし あや)
1996年生まれ、北海道出身。現在22歳。
学生時代に卒業製作として制作した『溶ける』が、ぴあフィルム・フェスティバル、なら国際映画祭など国内各種映画祭で受賞し、第70 回カンヌ国際映画祭正式出品を果たす。今作『真っ赤な星』が初長編作品、劇場デビュー作となる。また、山戸結希プロデュースによるオムニバス映画『21世紀の女の子』の公開も控える。
取材・文:香田史生
CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。
『真っ赤な星』
2018年12月1日(土)よりテアトル新宿ほか全国順次公開
(c)「真っ赤な星」製作委員会