全く違った主演二人へのアプローチ
Q:そんな強烈な二人が主演に決まったわけですが、実際の現場ではどのように演出されたのでしょうか。
枝:保紫さんは3年ぐらい芝居をやっていて、どちらかと言えば理屈で考えるタイプです。台本もパズルのように考えていく頭のいい子でした。一方で、モトーラさんはほとんどお芝居経験がなく、台本は感情で読んでいくタイプです。二人とも全く芝居の向き合い方が違いました。なのでこちら側の演出アプローチも変えていきました。
こっちは突き放して、こっちは構って、みたいに接し方を分けてやってると、劇中で二人の関係が良好じゃなくなるシーンで、実際の現場でも二人の関係がそうなってしまった時もありました。
Q:確かに。映画の中でも二人はそういう関係性でした。
枝:でも究極的にいうと二人はタイプが似てるんです。周りの女子高生役の子たちは、現場を盛り上げたりとか、スタッフにお茶を配ってくれたりとか、そういう気遣いもしてくれてたんですけど、主演の二人は全くそんな状況ではなく、いっぱいいっぱいでしたね。その分、常に二人だけ世界が存在していました。控室でも二人で何だかネガティブな話をしてるとか。まぁ、それでも分かり合えてるのならいいのかなと思ってましたけどね。
Q:ネガティブな話をしてるんですか!?
枝:してました。この撮影は皆で寝食共にする合宿形式で、二人の部屋は一緒だったんです。そうすると、だんだん仲良くなってくる。役の上ではモトーラさんが引っ張っていくのですが、撮影が終わると、実際には年上の保紫さんに金魚のふんみたいにずーっとくっついて回ってました。保紫さんが「これやりたい」って言うとモトーラさんも「私もそれやりたい」とか言って。
Q:小学生ですね(笑)。
枝:そう、小学生みたいでした。ご飯の時なんか、保紫さんが「私は部屋で食べます」って言うと、「私も部屋で食べます」とか。言い方まで同じでした。だから保紫さんがみんなと仲良くなるシーンが増えてくると、モトーラさんが何だか嫉妬するようになってきて、すごい怖い顔とかしてた時もありました。
Q:モトーラさんがお父さんにビンタされるシーンでは、嘘をつきたくないから実際に叩いてほしいと本人からリクエストがあったそうですが。
枝:そうですね。あれは私のせいでもあるんです。モトーラさんは芝居をほんとにやったことがなかったので、演技をうまくやろうとするんですよね。でも、自分が悲しくもないのに悲しい感情を表現しようとかするから、「そういうのやめろ、嘘をつくな」って言ってたんです。そうしたら「叩かれないのは嘘だから」みたいになってしまって。結果、怪我もなく大丈夫だったのでよかったですが。
Q:メイキングを見ていると、二人がクランクアップの日に「また枝監督に使ってもらえるようにできたかどうか心配ですけど、また枝監督とやりたいです。」みたいなことを涙ながらに言ってましたよね。二人は枝監督をすごく信頼してたんだなっていうのがすごく伝わってきました。
枝:昨日もちょうど一緒に飲んでました(笑)。
Q:ああ、もう飲める年齢なんですね。
枝:そうですね。二人とも飲める年齢になりました。撮影当時、モトーラさんは18歳ぐらいだったんで、打ち上げのときとかも一人だけジュース飲んでたんですが、最近飲めるようになりました。