撮りたい画はすべて言語化した
Q:映画の構成について聞かせてください。映画では、女子高生のリアルな日常を切り取りつつも、蚕のメタファーなど非日常のファンタジーのような要素も入ってきます。それは、一歩間違うととても安っぽくなると思いますが、完成した映画は全然そうはなっていない。その辺のバランスってとても難しいと思うのですが。
枝:これは保紫さん演じる「小原ミユリ」の話だから、すべて彼女の視点で物語が始まっていくんです。そして彼女は映画の間中ほぼずっと出ているんですよね。そんな彼女が思い込みによりどんどん思考が狭くなっていく、その思考が狭くなっていくことを主観で撮っていこうと撮影監督と話していました。なるべく、本人の精神状態と同じような撮り方をしていきたかったんです。
また、いじめられているシーンは「引き」で撮っています。私はエドワード・ヤンが大好きなのですが、彼の作品って絶望をあおる瞬間だけ引きで撮ったりとかしてるんですよ。観客からしたら何が起こってるか分からないんだけど、そこでは当事者だけの世界が繰り広げられている。結局、いじめって介入できないし、いじめられている本人は一人ぼっちに感じているんです。画を引きにすることによって、その無力さや絶望を出すようにしました。映画を見てる人が彼女の視点でものを見れるようにしたんです。
一方で、モトーラさん演じる「富田紬」にはあえて寄り添わず、本人の行動が理解できないようにしています。
Q:エドワード・ヤンの話が出ましたが、監督の好きな映画であろう『リリイ・シュシュのすべて』や『花とアリス』のような、オマージュに溢れた画もいっぱい出てきます。その辺は、撮影監督の平見優子さんと、どういうふうにお話しされたのでしょうか。
枝:平見には『リリイ・シュシュのすべて』も含めて、参考に見てほしい映画を10本くらい渡したんです。その時は「分かりました。見ます」って言ってたんですが、実は1本も見てなかったっていう衝撃の事実が。。
Q:え? ほんとですか。
枝:実は見てなかったってことが後で分かって。「見ちゃうと、何か真似したくなっちゃうじゃないすか」って。だから「枝さんがやりたい意図は汲みつつも、見ませんでした」と、公開のときに言われました。平見とはそもそも映画の好みが全く違うんです。彼女は、篠田昇さん(岩井俊二作品の多くを手がけた撮影監督『リリィ・シュシュのすべて』も撮影)が撮るような画は好みではないとはっきり言われちゃって。
Q:でも映画は完全に篠田トーンですよね。
枝:篠田さんみたいにやってというよりは、こういう意図を持ってこういうことをやりたいんだってことは常々話していました。例えば、鮮明な画は好きじゃないので、輪郭をはっきり描きたくない、じゃあスモークたきましょうって、スモークたいて、光でここをぼやかそうとか、平見は頭がいい人なので、そういう感じでやってましたね。
また、さっきのエドワード・ヤンじゃないですけど、引きの画で撮るのはこういう意味があるからなんだと、一つ一つ言語化させていきました。私が撮りたい画に対してスタッフの理解を得られない場面でも、撮影監督としてスッて出てきて「ここはこういう意図があるので、必要なんです」みたいな感じでフォローしてくれました。
Q:ちゃんと監督のやりたいことが凝縮されてる画になってますよね。
枝:しかも、カメラマンは監督のやりたい映画を見ないで撮っているという(笑)。
Q:最後に、今後はどんな映画を作っていきたいか聞かせてください。
枝:2018年はこの作品のおかげで、少女の出るミュージックビデオや様々な作品のオファーをいただく機会が増えました。とてもうれしかったですし、充実していました。でも2019年は少女だけでなく男の人も撮りたいなと。そもそも男女は関係なく、人間を撮りたいなっていう気持ちがすごくあるんです。また、この映画をきっかけに、若い人が見てくれるようになったりしたので、次も若い人が見たくなるような映画を撮りたいですね。
Q:ぜひまたスクリーンで見れることを楽しみにしています。どうもありがとうございました。
枝:ありがとうございました。
監督・脚本:枝 優花 (Yuka Eda)
1994年3月2日生まれ。群馬県高崎市出身。
監督作『さよならスピカ』(2013年)が第26回早稲田映画まつり観客賞、審査員特別賞を受賞。翌年の第27回早稲田映画まつりでも『美味しく、腐る。』(2014年)が観客賞に選ばれる。大学時代から映画の現場へ従事し、山下敦弘監督の『オーバー・フェンス』(2016年)特別映像撮影編集、とけた電球、STU48、高井息吹などのMV監督も務める。その他も、「ViVi」「装苑」などでのスチール撮影、メイキング、助監督とその活動は多岐に渡る。
取材・文:香田史生
CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。
『少女邂逅』
2019年1月16日(水)
Blu-ray&DVDリリース
<Blu-ray【監督・枝優花 完全監修パッケージ仕様】>
価格:¥5,800+税 /枚数:Blu-ray1枚組 /品番:PCXP.50618
<DVD>
価格:¥3,800+税 /DVD1枚組 /品番:PCBP.53868
<収録時間>
本編約101分+映像特典
※映像特典はBlu-rayのみ
<Blu-ray限定特典>
・仕様:アウターケース
・封入特典:特製52Pフォトブック
・映像特典:メイキング
※DVD商品には上記特典は付属・収録されず本編ディスクのみとなります。
発売・販売元:ポニーキャニオン
(C)2017「少女邂逅」フィルムパートナーズ