ドラマ版『ファーゴ』の不気味な悪役
コーエン兄弟による同名映画を着想元にしたドラマ版『ファーゴ』。シーズンごとに物語は別々で、時代や舞台、登場人物も異なるが、主な舞台は冬のアメリカ中西部。共通の登場人物がシーズンをまたいで登場することもあり、毎回ごく普通の市民が事件に巻き込まれ、警察官が狂言回しになる形式は一貫していて、これは映画版にも通じる。そして、お約束の「これは実話である」の一文から始まる。これまでシーズン3までが放送されてきた。
シーズンごとに話が別々というわけで、いきなりシーズン3の話から始めるが、ユアン・マクレガーがひとり二役で演じた双子のエミットとレイ・スタッシー兄弟を中心に描かれる。成功した経営者であるエミットは、前に借りたお金を業者に返そうとするが、代理人として現れた怪しげな男V・M・ヴァーガは、投資をしたつもりだったと言って受け取らず、エミットの会社をあっという間に乗っ取ってしまう。一度お金を受け取ってしまったエミットはなす術もなく、右腕のサイ(マイケル・スタールバーグ)とともにヴァーガの恐ろしい裏の顔を知る……。
このヴァーガ、とにかく不気味。これまで紹介してきたキャラクターたちのような表向きの温かみがない。髪はボサボサでスーツはよれよれ、清潔感とは無縁。いちばんの特徴は薄汚れたボロボロの歯で、これが話したり笑ったりするたびに覗くのだが、どうやら一度に大量に食事をしてはあとで戻すという習慣のせいらしい。話し方もねっとりしていて怖いのだが、その語りにはなぜか聞き入ってしまう。
最初から影がにじみ出ているような人物だが、その不気味さや怪しさは、地味な外見が際立たせているように思う。歯は汚いが、それでも基本はただのくたびれたおじさんだ。だからこそ、ユアン・マクレガーと一緒に観ている側もその正体を知るにつれて恐怖を覚えることになる。そして、こういう怖さはこういうひとじゃないと出せないんじゃないかなあと思う。
デヴィッド・シューリスの出ている作品はまだまだたくさんあるので、ちょっとずつチェックしていきたい。他の英国俳優についてももっと知っていけたらと思うのだった。
イラスト・文: 川原瑞丸
1991年生まれ。イラストレーター。雑誌や書籍の装画・挿絵のほかに映画や本のイラストコラムなど。「SPUR」(集英社)で新作映画レビュー連載中。