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感じたことを認められない苦悩とは『あなたはまだ帰ってこない』エマニュエル・フィンケル監督【Director’s Interview Vol.20】

感じたことを認められない苦悩とは『あなたはまだ帰ってこない』エマニュエル・フィンケル監督【Director’s Interview Vol.20】

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マルグリットになりきったメラニー・ティエリー



Q:マルグリットの心情を体現したメラニー・ティエリーの演技は素晴らしいものがありました。役作りについて彼女とはどのような話をされたのでしょうか。


フィンケル:彼女はとても才能のある人なので、私が監督として指示することはそれほどありませんでした。彼女はすでにマルグリットになりきっていたんです。よって、役についてのディスカッションもほとんど必要ありませんでした。


 また、マルグリットが持っていた、ロマンチックな部分と繊細で傷つきやすい部分の二つを、メラニー自身がうまく取り込んで表現してくれました。お互い役柄について認識に齟齬はなく、撮影中もちょっとニュアンスを変えて調整した程度でしたね。




Q:メラニー自身、デュラスの『苦悩』を読んで自分なりに解釈していたんですね。


フィンケル:もちろん彼女は『苦悩』も読んでるし、デュラスの他の作品も読んでます。デュラスにまつわるドキュメンタリーやテレビ番組などを見て勉強もしていました。ですが、実際の撮影に入った時にはそれらは全て忘れて、彼女なりのデュラスになりきったんです。


 『苦悩』を書いてた頃のデュラスはまだ有名ではなく、普通の若い一般女性でした。夫がいない空虚さや、愛情を持つべきではない相手への湧き出てしまう感情など、それらを普通の若い女性として、感じるままになりきってほしいとお願いしたんです。メラニー自身も、書かれた内容をそのまま演じるのではなく、書かれた感情を自分で語るように気をつけていました。


Q:今の話でも出たように、マルグリットの「苦悩」は、夫ロベールを待ち続け耐え忍ぶものでありつつも、ラビエやディオニスなど彼女をめぐる男たちとの愛に呑まれてしまう(葛藤する)ものようにも思えました。改めて、監督はマルグリットの「苦悩」をどう捉えていたのでしょうか。


フィンケル:おっしゃるとおり、葛藤のための苦しみだと思います。帰ってくるかどうか分からない夫を待つ苦しみではなく、心の奥底で感じたことを感じることができない、感じてはいけないような状況にある、その心の中の葛藤が苦しみに結び付いているんだと思います。私たちは皆そうだと思うんですね。自分の心の底に思っていることをそのまま認められない、そこから苦しみが来るのだと思っています。




Q:彼女が心の中で思ってるのは、周りにいる男たちのことですよね。


フィンケル:そのとおりだと思います。ゲシュタポの手先ラビエに対しては、肉体的に引かれているだけで、本当の愛ではないと思うんですね。ある意味ではエロチックな愛情だと思います。一方でレジスタンス仲間のディオニスに対する思いは、本物の愛情だと思います。最初にあった深い友情が愛情に変わっていってしまう。でも夫を待たなければならないという葛藤ですよね。


Q:そういう愛にまみれた映画ですが、直接的なラブシーンはありません。


フィンケル:それはデュラスの小説自体をかなり忠実に映画化してるからです。例えば、ラビエとの関係についてもディオニスとの関係についても、全く詳細は書いてなくて、慎み深くシンボリックに書いてるんですね。それを映像化したんです。



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