20世紀フランス文学を代表する女流作家であり、先鋭的で独創的な映画作家でもあるマルグリット・デュラスの原作『苦悩』を映画化した『あなたはまだ帰ってこない』が、いよいよ公開。今回メガホンをとったのはベルトラン・タヴェルニエやクシシュトフ・キェシロフスキ、ジャン=リュック・ゴダールらの助監督を経て95年に監督デビューしたエマニュエル・フィンケル。原作の映画化に挑んだ監督に話を伺った。
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表現したかったデュラスの文体
Q:なぜデュラスの『苦悩』を映画化しようと思ったのですか。
フィンケル:若い頃にこの小説を読み、個人的に特別な関係を感じました。そこからずっと映画化したいと思っていたんです。実は、私の父の家族は、この小説と同じようにドイツ軍の収容所に連れていかれたんです。その後父は一生の間、家族を待っていましたが、彼らが帰ってくることはありませんでした。
Q:その原作を映画化するにあたり、気をつけたことは何でしょうか。
フィンケル:デュラスの書く文体やリズム、その作風ですね。彼女独特の音楽の流れのような文体、それを大切にしました。特にナレーションで語っている部分は、非常にデュラスらしい文体の抜粋なんです。
また、彼女が描いている主人公というのは、矛盾や欠点だらけで葛藤をずっと抱えている人なんです。それをしっかり感じてもらえるように気をつけて描きました。
Q:マルグリット自身を見つめるもう一人のマルグリットを同一画面に登場させたり、フォーカスアウトの多用、モノローグ(ナレーション)など、原作をうまく映画的言語に変換されているようにも思えました。
フィンケル:はい。彼女の主観に、見ている人が感情移入できるようにするのが狙いです。観客とマルグリット自身の距離が短くなるようにしているんです。
Q:彼女の主観で考えてみると、フォーカスアウトしてるときは周りがちょっと見えてないように感じました。
フィンケル:そうですね。そのとおりだと思います。考え事をして歩いていると、周りが見えず何となくぼーっとしたりしますよね。それと同じような状態を表現したかったんです。また、本人が2重に映っている場面では、彼女の葛藤を、そのまま2人の人物として描いています。彼女の今の行動は、実は心の中では同意していない。それをもう一人の彼女が存在することにより表現したんです。