意識したのはスピルバーグ
※本章は物語のラスト部分に触れています。
Q:コズエが自分の故郷を説明する際には、アニメーションが用いられていますね。
鶴岡:はい、砂絵のアニメーションです。
Q:まさに映画ならではの原作からの変換だと思いますが、あの表現を取り入れた意図を教えてください。
鶴岡:当初の脚本では、コズエとサトシが並んで話してるただの会話シーンだったんです。でも、そのままだと絶対観客の頭には入ってこないよ、という意見もあり、確かにそうだよなと思って、別の表現に置き換えようと決めたんです。
それまでの自分の映画には、実写以外のものを挿入することがあまりありませんでした。自分の撮っているものの中に、何を入れたら違和感なくなじませられるかって考えた時に浮かんだのが、今回アニメーションを担当してくださった佐藤美代さんでした。実は彼女とは大学院が同じで、彼女の作品の大ファンだったんです。早速、脚本に「砂絵」って説明を追加して(笑)、佐藤さんにオファーをさせていただきました。
Q:全体的な構成についてですが、家族の話があって、SFっぽい要素もあって、子どもはたくさん出てくるし、これってスピルバーグだなって思ってしまいました。
鶴岡:おっ!ありがとうございます(笑)。
Q:意識されたりはしたのでしょうか。
鶴岡:まさに、意識しました(笑)。脚本書き始める前段階ぐらいから、宇宙人と少年が出会うっていう意味では『E.T.』との共通点みたいなことを話していましたし、やっぱり『未知との遭遇』も意識せざるをえませんでしたね。
Q:スピルバーグが描く場合は母子家庭が多いと思うのですが、何かちょっとぎくしゃくしてる家族みたいな要素もすごく似てますよね。逆にそこをしっかり描いているからこそ、後半のSF方向への展開も説得力があるような気がしました。
鶴岡:ありがとうございます。
Q:スピルバーグの名前が出ましたが、他に映画を作る時に参考にしている作品や好きな監督など、他にいれば教えてください。
鶴岡:こういう作品が撮れたら最高だろうなと思うのは、ジョナサン・デミ監督の作品ですね。
Q:ジョナサン・デミ。『羊たちの沈黙』や『フィラデルフィア』の監督ですね。
鶴岡:そうです。『フィラデルフィア』が大好きなんです。法廷劇でもあり社会的なことにもチャレンジしてる作品なんですが、すごく人間を撮ることに徹底してるんです。カメラワークにしてもお芝居にしても、あの完成度ってどうやったら到達できるんだろうって、常に目標にはしています。
Q:今後はどんな映画を作っていきたいですか。
鶴岡:今回も自分で脚本を書いているので、割と自分の色は保てていて、それはそれですごく大事にしたいと思っていますが、一方で、今まで取り組んでこなかったテーマやジャンルにも、他の人と一緒に学んでチャレンジしてみたいっていう思いもあります。
また、普段は役者さんとコミュニケーションとれる機会って少ないんですけど、役者さんと徹底的に映画を作ってみたいっていう思いがあるんです。役者の力が大きく影響するようなプロジェクトをやってみたいですね。
Q:今回もそういうプロジェクトなんじゃないかなって思うぐらい、役者さんはすごく魅力的でしたよね。
鶴岡:ありがとうございます。
Q:では最後に、このインタビューを読んでくださっている皆さんにメッセージを。
鶴岡:私自身、この映画に関わってた間はすごく幸せな時間を過ごしました。この映画自体に励まされ、喜びをもらったすごく大事な作品です。この映画を見ていただいた方にも、その方の中で何かが残って、幸せな時間を過ごしてもらえたらうれしいなと思います。
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監督:鶴岡慧子
1988年生まれ。立教大学在学中から映画を撮り始め、卒業制作としてつくった初長編監督作品『くじらのまち』(12)が、PFFアワード2012においてグランプリ&ジェムストーン賞をW受賞。その後第63回ベルリン国際映画祭、第17回釜山国際映画祭など各国の映画祭にて上映される。2012年に東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻監督領域に入学。大学院在学中に長編2作目となる『はつ恋』(13)を監督、同作品は第32回バンクーバー国際映画祭ドラゴン&タイガー賞にノミネートされた。2015年『過ぐる日のやまねこ』(PFFスカラシップ作品)で劇場公開デビュー。
取材・文:香田史生
CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。
『まく子』
2019年3月15日(金) テアトル新宿ほか全国ロードショー
公式サイト:http://makuko-movie.jp/
(C)2019「まく子」製作委員会/西加奈子(福音館書店)