Index
映画的な「路面電車」というモチーフ
Q:なぜ京都の嵐電だったんですか。
鈴木:本作のプロデューサーである西田宣善さんが、まさに嵐電が走っている御室仁和寺の出身なんです。しかも西田さんのお父さんは役者をやられていて、そのきっかけが何と嵐電の中で溝口健二監督に声を掛けられたことなんです。「あなた、いい顔してますから映画出ませんか」って言われたそうなんですね。また、西田さん自身も、初めて八ミリカメラを手にしたときに、まず嵐電を撮ったりしたこともあり、嵐電の映画をいつか撮りたいっていうのが、彼の中にずっとあったんです。
また、僕も以前、山本政志監督のシネマインパクトっていう映画塾の講師を務めていた際、その参加者のみんなと一緒に、都営荒川線周辺の街を舞台にした映画を撮ったことがあったんです。その映画を西田さんがご覧になっていて、この人なら嵐電の映画が撮れるんじゃないかと、お声がけいただいたんです。
その後、西田さんはプロデューサーとして、嵐電を運営している京福電鉄さんに企画を持ち込んで話を進めていきました。当初、京福電鉄側からは人が死んだりするような事件モノはNGが出てたのですが、恋愛軸の話にしたこともあり京福側から大きな協力を得ることができました。僕自身もちょうど2016年から京都造形芸術大学の映画学科で映画を教え始めたということもあり、これまで五本の劇場用映画を世に送り出してきた北白川派映画プロジェクトと繋げたりして、この企画を進めていったんです。
Q:いろんな縁が重なったんですね。
鈴木:そうなんです。でも僕自身は、嵐電はもとより京都自体も縁のない人間だったんですけど、大学で京都に呼ばれることになったのが大きなきっかけになりましたね。人生で京都と関わることはないと思ってたんですけどね(笑)。
一方で、映画の撮影所がたくさん存在していた京都を走る路面電車って、すごく映画的なモチーフだとは思っていました。何でしょうね、アキ・カウリスマキの『浮き雲』(96)って映画にも電車が出てきますけど、そういう映画を自分も作ってみたいなって思っていました。でもそのためには鉄道会社さんの全面的な協力が必要だろうなって。それが今回京福電鉄さんの協力をいただくことができて、本当にありがたかったです。それにタイトルも『嵐電』って、そのまんまじゃないですか(笑)。
Q:そうですよね、そのまんま。
鈴木:よく鉄道映画っていうと、運転士や車掌さんが主人公として出ることが多いのですが、今回はそういう人たちはほぼ出てこない、その代わり電車は出まくるぞみたいな映画になりましたよね(笑)。出来上がってみると、前例のない映画になったかなと思います。