マンチェスターの男は「自分こそが最高で他の連中はクソ」という思想を持っている(笑)『イングランド・イズ・マイン モリッシー、はじまりの物語』マーク・ギル監督【Director’s Interview Vol.29】
モリッシーからの返答はいつも同じ…ノー・アンサー
Q:映画はモリッシーもジョニー・マーも協力していませんが、どのようなリサーチを?
ギル:まず、参考にしたのはザ・スミスがデビューしたばかりの頃の、モリッシーの様々なインタビュー記事だ。キャリアも浅いから情報も少なく、生い立ちや家族、青春時代に感じていた孤独やうつ状態について語っていた頃のね。そして、ザ・スミスの最初の頃のアルバムに収められていた曲の歌詞だ。
基本的には『ザ・スミス』『ハットフル・オブ・ホロウ』、そして『ミート・イズ・マーダー』を聴きこんで、物語のイメージを作り上げた。この3枚には、モリッシーというアーティストになる前のスティーヴン像が浮かび上がっている。次のアルバム『クィーン・イズ・デッド』になると、もうスティーヴンではなく、モリッシーの姿の方が強く出ているよね。
モリッシーの最初のバンドメイト、ビリー・ダフィがアドバイザーとして協力してくれたのも助かった。おかげでビリーの友人にも話を聞くことができたしね。アンジーの家族にも取材した。そしてドラマをつくるうえで大事だったのは、僕自身の考えや気持ちだ。僕もスティーヴンと同じように、若い頃は音楽をやっていたし、同じような経験をしている。アートを武器にしてここから抜け出したいという気持ちを強く持っていた。そういうところはどうしても投影されているよね。そのようにしてキャラクターを作り上げた。それをジャック・ローデンに託して、“このシチュエーションならこうする”ということを考えながら演じてもらったんだ。
Q:モリッシー本人はこの映画について、まったくコメントしてませんね。
ギル:本当は彼も映画を気に入ってるんじゃないかな(笑)。製作時からモリッシーには何度も連絡をとったんだ。映画を作りたいと手紙を書いたけど、ノー・アンサーだった。資金が集まったこと、撮影が始まること、完成したことを伝えても、どれもノー・アンサー。ただ少なくとも、彼がこのプロジェクトを止めさせようとしなかったのだから、OKということだろうと、僕らは良いように解釈した(笑)。
少なくとも、ある青年の物語を誠実に語り、映画として上質なものになれば大丈夫だ……という気持ちはあった。
Q:モリッシーの旧友ジェームズ・メーカーは予告編を見ただけで、この映画を非難しましたね?
ギル:実は、ジェームズ・メーカーはこの映画の企画を聞きつけて、「参加させて欲しい」と言ってきたんだ。僕らは丁重に断ったんだけど、それを根に持っていたのかもしれない。だから映画を見もせずに、この映画を非難していたんだろう。いろいろ話を聞いてみると、彼は自伝を書こうとしていたり、注目を浴びたがってるような人で、モリッシーの友人であった、という以上の何者でもない。なので、その批判を耳にしたときは、クスっと笑って、はい、おしまい、って感じだった。