マンチェスターの男は「自分こそが最高で他の連中はクソ」という思想を持っている(笑)『イングランド・イズ・マイン モリッシー、はじまりの物語』マーク・ギル監督【Director’s Interview Vol.29】
マンチェスターの”特別な10年間”から生まれたザ・スミス
Q:伝説のセックス・ピストルズのマンチェスター初公演のシーンですが、『24アワー・パーティ・ピープル』(02)のそれとは、かなり雰囲気が違いますね。本作ではどのような意図で再現したのでしょう?
ギル:『コントロール』(07)でも再現されていたけれど、あの映画や『24アワー・パーティ・ピープル』と、本作が語ろうとしていることはまったく違う。それらが描いたセックス・ピストルズのライブは伝説としての公演だったけれど、僕の映画はあくまでもスティーヴンの視点で、しかもそのライブを見た彼は好意的に受け止められず、NMEに批判的な投書をするわけだ。先述の2作との再現の違いはそこにある。
この映画におけるスティーヴンの感情は、“自分も彼らのようにライブをやりたいけれど、見事にやり遂げているあいつらは嫌いだ”ということなんだよ。これは、いかにもマンチェスターの男性らしい気持ちで、ロックスターにたとえるなら自分が最高で、他の連中はクソ、という考え方なんだよ(笑)。つまり、この場面では伝説のステージに焦点を絞るのではなく、あくまでその場にいたスティーヴンのネガティヴな感情を切り取りたかったんだ。
Q:マンチェスターは本当に素晴らしいバンドを多く生み出しましたが、その理由はどこにあると思いますか?
ギル:マンチェスターは元々、工業都市として繁栄していたけれど、どんどん廃れていき、そこで生まれた子どもたちが町を抜け出すには、サッカーか音楽かしかなかった。映画監督にしても、マンチェスター出身というとダニー・ボイルくらいだしね。そういう環境下でのハングリー精神が要因だろうね。
楽器は安く手に入ったし、パンクなら、ちょっと練習すればできるしね。そこに多くの若者が飛びついて、1979年からの10年間は、ザ・スミスを筆頭にジョイ・ディヴィジョンとニュー・オーダー、ザ・ストーン・ローゼズ、ハッピー・マンデーズなど多彩なバンドを輩出した。他の町からもバンドは生まれているけれど、マンチェスターでのあの10年間の音楽シーンの発展は特別だった。現在のマンチェスターの若者には音楽へのこだわりがないね。彼らにとってパンクなアティテュードは、音楽よりもむしろゲームデザイナーのような類だ。
Q:極右政党の支持が報じられている、現在のお騒がせモリッシーを、どう見ていますか?
ギル:僕がモリッシーのファンだったのはザ・スミスの頃までだ。政治的な発言をするのは結構だけれど、言ったからには信念を貫いて欲しい。物議を醸してキャンセルせざるをえなかったマンチェスターでの公演にしても、やって欲しかったよ。いちばん大事にしなければいけないのは、チケットを買ったファンだからね。言いたいことを言うのはかまわない。でも、それによってアーティストの役目を放棄するのはナイーブすぎやしないかな。
“辛辣な皮肉屋”と自身について語るギル監督だが、そんな彼が、より辛辣な皮肉屋であるモリッシーを題材にした映画を撮るというのも面白い。もっとも、映画『イングランド・イズ・マイン モリッシー、はじまりの物語』で主人公に注がれる視線は暖かく、共感を持って寄り添うような、そんな気持ちにさせられる。ぜひ注目して欲しい。
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監督・脚本:マーク・ギル
マンチェスター出身。本作『イングランド・イズ・マイン モリッシー,はじまりの物語』(17)が長編デビューとなるマーク・ギルは、デイヴィッド・ミッチェルの小説「ナンバー9ドリーム」(新潮社)の一部を映画化した、マーティン・フリーマンとトム・ホランダー主演の短編映画『ミスター・ヴォーマン』(12)で、第86回アカデミー賞(R)短編映画賞、英国アカデミー賞短編映画賞にノミネートされ、世界各国の映画祭で数々の賞を受賞している。そのほかの監督作品は『Full Time』(13)短編。現在、ジェームス・スマイスの小説「The Testimony」を原作とした映画『THE BROADCAST』を準備中。
取材・文: 相馬学
情報誌編集を経てフリーライターに。『SCREEN』『DVD&動画配信でーた』『シネマスクエア』等の雑誌や、劇場用パンフレット、映画サイト「シネマトゥデイ」などで記事やレビューを執筆。スターチャンネル「GO!シアター」に出演中。趣味でクラブイベントを主宰。
『イングランド・イズ・マイン モリッシー, はじまりの物語』
2019年5月31日(金)、シネクイントほか全国ロードショー
配給:パルコ
公式サイト:http://eim-movie.jp/
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