『霊的ボリシェヴィキ』という映画をご存じだろうか。2018年にごく小規模で公開されたため、作品自体を知らない人も多いだろう。しかし、この作品は恐怖映画を愛する人なら特に必見の作品だ。廃工場に集められた男女が自らの恐怖体験を順番に語っていく。それは「何か」を召喚するための霊的実験だった…。このシンプルな設定で、今までになかった恐怖表現に大胆にアプローチし、味わったことのない感覚を体験させてくれる。そんな作品がこの度ブルーレイ/DVDで発売された。監督は『女優霊』(96)『リング』(98)の脚本家として知られ、恐怖表現を新たなステージへと押し上げてきた高橋洋。今回は発売を記念し、高橋監督に作品の魅力と、新たな恐怖表現を生み出した舞台裏を語ってもらった。
Index
「この言葉をタイトルにしたい」その衝動が企画の発端
Q:『霊的ボリシェヴィキ』、2018年の最重要作だと思います。劇場公開から1年、遂にブルーレイディスクで発売となりました。おめでとうございます。
高橋:ありがとうございます。
Q:まずタイトルの『霊的ボリシェヴィキ』という言葉が独特です。このタイトルはオカルト研究家・武田崇元(※注1)さんの造語だそうですが、監督が『霊的ボリシェヴィキ』という言葉を知ってから映画化に至るまで、どういう経緯だったんでしょうか?
※注1 武田崇元:神道霊学研究家、超常現象研究家。雑誌『ムー』などの顧問を務め、80年代のオカルトブームの火付け役となった。
高橋:かれこれ20年前に『霊的ボリシェヴィキ』という言葉を初めて知りました。言葉の意味はわからないけど、これをタイトルに冠した作品を作りたいと直感的に思いました。でも最初は意味も分からないから、どんな形にしていいかもわからずモヤモヤしていたんです。
そんな状況で2000年代に入ってから、Jホラーシアターという連作企画で僕がその中の一本を撮ることになった。その時に、具体的に構想を練りだして、「何かを呼び寄せる実験のために、人々が集まって怖い体験を語る」という骨格は出来上がりました。その時は結構予算があったので、それぞれの登場人物が語る怪談を全部再現ドラマにする予定でした。でも映画全体のストーリーが高踏的すぎるということで、結局別の企画を撮影することになったんです。
それでその後も自分が監督をするチャンスがある度に、『霊的ボリシェヴィキ』の企画を出していたんですが、プロデューサーからは「よくわからん」と言われ続け、ずっと寝かしていました。すると2017年に映画美学校で映画を撮るチャンスが巡ってきた。じゃあもうこれやっちゃおうかと。
でも予算が低かったので、怪談の再現ドラマをやめて、全部「人が語る」というスタイルに切り替えたんです。その演出方針の変更は後から考えたら大正解でした。