霞も空も、現場で作る
ごんと兵十がそれぞれの過去を思い浮かべるシーン。その情景は、幼い頃のおぼろげな記憶を表すように、柔らかく霞んでいる。
これは写真用語でソフトフォーカスと呼ばれる効果で、通常はレンズに専用のフィルターを取り付けたり、編集ソフトを使うなどしてつけられるが、『ごん』では独自の方法で作られた。カメラの前に極薄の和紙を貼った木枠を置いて、和紙越しに撮影したのだ。
和紙を使うことで、まるで水彩画のように柔らかな画の質感が得られた。また、はっきりと見せたい部分はあえて和紙に穴を開けるなど、細かい調整も可能だ。
セットの後ろ、背景にそびえる山や空などの風景は、白壁にプロジェクターで投影することで作り出している。過去作品では青い布をひいてブルーバック合成していたが、この方法に変えたことでブルーバックの青色の照り返しがなくなり、現場で仕上がりの雰囲気を確認しやすくなった。
セッティングされたセットの前に立てば、時折ここがスタジオの中であることを忘れてしまうほどにナチュラルな野山の風景が広がっている。
近年はあらゆる撮影現場でデジタル化が進み、編集や後処理でできることが増えた。役者以外は全てグリーンバック、ということさえ珍しくない。
そういった流れとは逆行して、できる限り現場で画のクオリティを決め込むためのアイデアが、『ごん』には散りばめられている。それがかえって新鮮に感じた。