『ごん』の制作チームを有する「TECARAT」の由来は「手から」だという。その名の通り、どこまでも手作りにこだわる八代監督の現場。その独特な制作スタイルについて取材した。
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限界までアナログ勝負
『ごん』では、できるだけCG(コンピュータグラフィックス)に頼らない、手作りの表現を追求している。そのユニークな発想と、表現力の豊かさは国内外のストップモーション・クリエーターからも注目されている。その一部をご紹介しよう。
例えば、火縄銃から上がる煙は、手芸用の綿を糸で吊って表現されている。煙を綿で表現するのは、『犬ヶ島』(18)などの他のストップモーション作品でもしばしば見られるが、綿の質感はよく言えばかわいらしく、悪く言えばチープに見えがちだ。(犬ヶ島ではそのチープさを逆手にとってギャグとして成立させている)
しかし、八代監督の作る綿煙にチープさはない。自然な煙に見えるよう、綿の配置にとても気を使っていることがわかる。またアニメートも絶妙で、煙の流れ方でそこに吹く風の強さまで伝わってくるようだ。
Vol.4でも触れた、地面に当たって跳ね返る雨粒。手で作ると大変手間がかかるため、CGで表現する作品も多いが、『ごん』では3Dペンを使って作られた。
3Dペンは樹脂を高温で溶かし、瞬時に固まらせることで造形する「空中に絵が描けるペン」として話題になった。使うのにコツはいるが、この方法なら従来よりも早く作ることができる。しかし、あのグッズにこのような使い方があるとは、なかなか思いつかない発想である。