『ごん』の舞台は里山だ。人の生活圏のすぐそばに、まだ森や草原などの豊かな自然があった時代。その空気感を醸し出すために一役買っているのが鳥、虫、魚などの小さな生き物である。今回は劇中で登場する生き物たちにスポットを当ててみよう。
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原作の世界に寄り添う
ごんの本来の姿であるキツネ。脚のつき方、背骨の反り具合、肉付きや毛並みの厚みまで、写実とデフォルメを絶妙にミックスしたデザインだ。
動物の人形は、一歩間違えるとぬいぐるみのように丸々としてしまい、生き物としての説得力をなくしてしまう。人形作りに慣れたベテランのスタッフでも、シルエットを整えるために何度も手直しした。
原作でほんの一文だけ登場するモズ。キィーキィーという鳴き声で秋の訪れをつげる鳥だ。
このモズも、人物の頭と同じく木彫りで作られている。登場キャラクターすべてにというわけにはいかないが、可能なかぎり木を使うのが八代監督のこだわりだ。
実は、モズが止まっている枝のわずかな揺れも、一コマずつ動かして撮影している。
原作でも重要な役割を持つウナギ。ぬらぬらとした光沢はいかにもウナギらしい。中に金属線が仕込まれ、全身が柔らかく曲がるようにできている。 クニャクニャと身をよじって兵十の手を逃れようとするシーンも面白いが、弱ったウナギが力なく川に流されていくシーンの動きも見事だ。おそらく、渓流釣りが趣味だという八代監督の、日々の観察の賜物なのだろう。
ウナギ以外にも、あと二種類の魚が登場する。
左のハヤは、川で兵十がとる魚だ。ヒレのつき方や、体表のぬめりに生命を感じる。
いっぽう右のイワシは、イワシ屋が売っている商品なので、新鮮そうであるが生きてはいない。ピンと強ばった姿勢にもそれは表れている。わずか4~5センチほどの小さなスケールで、生きた魚と死んだ魚の違いにまで気を配っていることに感心してしまう。