アートとエンタメを両立させて、誰でも楽しめる作品に
Q:八代監督の作品はビジュアルが非常に作り込まれているので、一見アーティスティックで取っつきにくそうに思ってしまうのですが、見てみるとキャラクターが可愛らしく動いていたり、ストーリーも入り込みやすく、まさに子供から大人まで楽しめる作りになっていると思います。そのバランスが他にないと思いました。
八代:そうとってもらえると嬉しいですね。作品を作るとき、ビジュアル的・美術的な部分は、大人が見ても美しいビジュアルを意識しています。ただ、ストーリーは、自分で映画を見るときも、わかりやすいエンターテイメント作品が好きなので、それが両方ハマるようにしています。
Q:バランスをとる、という点でCM監督としての経験が生かされてるのでしょうか。
八代:それはあるかもしれませんね。CMには色々な人の意見が入るので、自分にとっては違和感がある部分も抱えながら、色々とバランスをとって形にする必要があります。自分の作品だとそういうのはないけど、違和感を加減する目安にはなっていると思います。
Q:最後に、観客の皆さんにメッセージをお願いします。
八代:ストップモーションならではのアート性と、映画として楽しめるエンタテイメント性を、バランスよく両立した作品だと自負しています。子供にも見てもらえる作品ですが、僕はとくに大人の方々に見て欲しいと思って います。
子供の頃には悲しく衝撃的に感じたストーリーの、後ろにある暖かさとともに、ストップモーションアニメーションの新しい可能性も感じてもらえたらと思っています。
Q:ありがとうございました。
今秋、ついに完成した『ごん GON, THE LITTLE FOX』。筆者は公開前に一足早く、完成映像を見ることができた。
抜けるような青空に映える彼岸花の丘。川の水のきらめき。薄明るい満月の夜道。そこにはどこかで見たことがあるような懐かしさがあるのに、どこにもない不思議な里山の風景が広がっていた。彼らは人形で、セットはミニチュアだ。それは分かるのに、その景色は箱庭のような小さな世界には留まらず、画面の外、遠く地平まで広がっていくようだ。
わかっていても、ラストシーンには胸を打たれた。それは、健気なごんを哀れに思うからだろうか。弱さを抱えながら現実と戦っている兵十に共感するからだろうか。胸に去来する感情は整理できず、ただ涙となって流れる。
この作品を、児童文学が原作だから子供向けだと、片付けてしまうのはあまりにもったいない。大人だからこそより深く味わえる、割り切れない感情の苦さ。その後に残るかすかな暖かさを、ぜひじっくりと味わって欲しい。
名作ごんぎつねに新しい解釈ーー兵十を惑わしたものは何だったのか
取材・文:池浦 蓮介
1988年生まれ、東京都出身。
高校生の時に観た『ウォレスとグルミット 野菜畑で大ピンチ!』をきっかけに、ストップモーションアニメの世界にのめり込む。
大学卒業後、映像制作業のフリーランスとして活動中。
『ごん / GON, THE LITTLE FOX』
(新美南吉「ごんぎつね」原作)
2019年秋公開予定 上映時間:28分
制作・著作:太陽企画/エクスプローラーズ ジャパン
公式サイト: http://gon-project.com/
公式twitter: https://twitter.com/gon_tecarat