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ホラー映画になるはずだった!?『脳内ニューヨーク』が描く奇想天外すぎる世界

(C)2008 KIMMEL DISTRIBUTION, LLC All Rights Reserved

ホラー映画になるはずだった!?『脳内ニューヨーク』が描く奇想天外すぎる世界

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見るたびに多様な受け止め方が生まれる



 2008年の公開以降、このポストモダン的な作品について様々な解釈や論考が生まれてきた。中にはビョークの「Bachelorette」の伝説的PVを引き合いに出す人もいる。これはカウフマンとのコラボでも知られるミシェル・ゴンドリーが監督した作品で、ある日、森の中で見つけた未来を予見する本の通りの出来事が起こり、それが出版、舞台化を遂げて、次々とマトリョーシカ人形のような多構造化が起こり始めるという内容だった。


 描かれている内容や物語性は全く異なるが、この内的増殖という要素だけに注目すると『脳内ニューヨーク』とよく似ている。本作はゴンドリーとカウフマンのコラボでは全くないものの、それでも両作を見比べると二人が極めて近しい意識や感覚、発想力を持ち合わせていることをひしひしと窺い知ることができよう。


 とはいえ、優れた脚本家であるほど自分や作品についての評価が固まること、あるいは一箇所に留まり続けることを嫌うもの。チャーリー・カウフマンもまったく同じだ。「見るたびに異なった解釈をしてほしい」(*2)と語る彼にとって最もうれしい瞬間は、観客が自分の全く意図していなかった解釈や感想を提示してくれた時だという。「だって、それは作品が生きているって証しだから」(*3)。


 この映画が唯一無二であるのと共に、観客の反応や感想も人それぞれであっていい。等身大の自分のまま飛び込むことで誰もが自由になれる。小難しい知識など必要ない。そこが本作の大きな魅力だ。



『脳内ニューヨーク』(C)2008 KIMMEL DISTRIBUTION, LLC All Rights Reserved


 2014年に亡くなったフィリップ・シーモア・ホフマンの名演にどっぷり触れられる点も含めて、人生の折々に、何度でも噛み締めたい名作である。


(*2、*3)公開時のプレス資料より引用



参考資料)

劇場公開時プレス資料

https://www.ioncinema.com/news/uncategorized/interview-charlie-kaufman-synecdoche-new-york



文: 牛津厚信 USHIZU ATSUNOBU

1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンII』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。



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『脳内ニューヨーク』

DVDレンタル中

発売元:アスミック/販売元:ポニーキャニオン

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