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『キングコング対ゴジラ』から『ゴジラvsコング』へ 約60年越しに完成する対決【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.59】

『キングコング対ゴジラ』から『ゴジラvsコング』へ 約60年越しに完成する対決【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.59】

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キングコングの愛らしさ





 眠ったままのコングを船で運ぶ描写や、空輸シーン、帰巣本能への言及、ゴジラに圧倒されていたコングが対抗手段を得るといった展開など、旧作から引き継がれている要素は多いが、なによりも際立つのはコングの表情、キャラクターだろう。旧作のコングの顔は、ゴリラというよりお猿にも見え、正直に言って不細工で、どこかとぼけた感じだが、そこが常に歯列をむき出しにした爬虫類顔であるゴジラとは反対に親しみの持てるところでもあった。今作のコングは、さすがに旧作のような顔では全然なく、モーションキャプチャーによって人間の表情のきめの細かさが再現され、動物的でありながらも知性と温かさを感じさせる眼差しは、かつての着ぐるみでは難しかっただろう。そして、今度はそんなリアルな人間らしい表情が、鱗に覆われたゴジラとのコントラストを生み出し、より一層親しみが持てるものとなっている。


 そもそも冒頭で登場するなり、コングは島に降り注ぐ朝日を浴びて伸びをし、お尻をかいて見せるのだ。この瞬間、ぼくたちは今回の作品の主役というか、心を移す相手が誰なのかすぐに確信する。今回の物語の中心はコングなのだ。そして、体のあちこちをぽりぽりかくコングの姿を見て、旧作のコングを思い出す。初めてゴジラと対決したかつてのコングは、かの怪獣が吐き出す放射熱線を前になすすべもなく、途方に暮れたように頭をかいて立ち去ってしまうのだ。どれだけリアルな造形となっても、今回のコングも昔と同じものを持っているとわかる。


 『キングコング対ゴジラ』でも好きなシーンは、コングが後楽園あたりで地上に出た丸の内線の車両をつかんで持ち上げるところで、前々回の記事でも紹介したように列車を持ち上げるというのは初代『ゴジラ』からのお馴染みのモーションなわけだが、ここで浜美枝が演じるふみ子を見つけてひと目で気に入ってしまうコングがなんともかわいく、とても喜んでいるのがよくわかって可笑しい。ふみ子からしたらとんでもない事態だが、彼女を手に持ったままコングがとりあえず国会議事堂の上に登るのが(当時はまだ他に登って様になるようなところがない)またおもしろい。旧作は旧作で、こうした元祖『キング・コング』へのオマージュも多く、和製キングコングとしても見ることができる。もちろん、初代『ゴジラ』誕生の背景に『キング・コング』の絶大な影響があったことも忘れられない。


 コングに捕まって散々な目にあうふみ子だが、このふみ子と、若林映子が演じるたみ江のコンビもととても素敵である。ふみ子はキングコングをファロ島から連れ帰るテレビ局員桜井の妹で、たみ江は彼女と同じ団地の住人なのだが、ふたりのキャラクターはもちろん、服装のかわいさなども注目したいところだ。このふたりは本作の海外上映で評判となり、のちに『007は二度死ぬ』で揃って出演することになる。


 人物でもうひとり印象的なのは、桜井らテレビ局員たちをファロ島に送り出すスポンサーの宣伝部長、多湖である。自社提供番組の視聴率向上しか頭になく、ファロ島のキングコングをマスコットにしようなどと考えるやや軽薄な人物だが、ツノ縁眼鏡にヒゲという見た目以外にも身振り手振りがおもしろく、主役級である桜井たちよりも目立つキャラクターと言える。個人的にはふたりの女優が扮した役と並んでお気に入りである。彼が軽率にも島からキングコングを連れて帰ろうとしなければ、日本に再上陸したゴジラに対して有効な対抗手段がなかったのだから、結果オーライというところだ。





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