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俳優と役の境界を超え、アイドル映画の究極として語り継がれる理由とは?『Wの悲劇』

俳優と役の境界を超え、アイドル映画の究極として語り継がれる理由とは?『Wの悲劇』

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「あまちゃん」で捧げられたオマージュ


「領収書! 領収書! 領収書!」

NHK朝ドラ「あまちゃん」で、大女優の鈴鹿ひろ美が、付き人になった天野アキに言い放つセリフだ。同じ単語をこうして3回繰り返すのは、『Wの悲劇』の名セリフ「女優! 女優! 女優!」への明らかなオマージュ。前者は薬師丸ひろ子が「言う」セリフで、後者は「言われる」セリフという違いはあるものの、薬師丸という共通キャストだけでなく、大女優と新人という関係性など、「あまちゃん」と『Wの悲劇』はいくつもの要素でシンクロする。「顔、ぶたないで」など他にもオマージュのセリフはあるし、薬師丸ひろ子がサングラスをかける動きが2作でそっくり……といったマニアックな共通点もある。

「あまちゃん」で描かれるメイントピックの一つが「アイドル」。「アイドル映画」というジャンルの一角を担ったのが、薬師丸ひろ子。時を超えて、この両者が交わる瞬間を目撃できるのは、なんて幸せなことだろう。

『Wの悲劇』を「アイドル映画」と呼ぶのは、ちょっと違和感があるかもしれない。しかし、トップアイドルとして国民的人気をつかんでいった薬師丸が、角川春樹事務所時代での最後の主演作である『Wの悲劇』によって、アイドルから本物の女優へと鮮やかな変貌をとげた事実は、確かな記憶として人々の心に刻まれている。

アイドル映画の新たな地平を切り開いた角川映画


 現在は、ほぼ死語となった「アイドル映画」。1970年代を中心に、アイドルとしての歌手やグループが主役を任された映画が数多く誕生し、ひとつのジャンルを形成していた。とはいえ、「アイドル映画」という呼び方が当時、一般的だったわけではなく、いま振り返ったときの呼称でもある。このブームの代表格ともいえるスターが、山口百恵。歌手として爆発的人気を得た後、わずか15歳で『伊豆の踊り子』の主演を任されて以来、次々と主演映画が製作される。アイドルと女優の両輪で活躍し続け、類い稀な演技力も認知された百恵だが、どちらかと言えば、歌手=アイドルとしての活躍が主軸だった。そういう意味で、彼女の出演作は「アイドル映画」と考えてもいい。

そのアイドル映画のブームを受け継ぎ、別次元で活性化させたのが角川映画である。それまではTVに露出していたアイドルの主演映画は数多くあったが、まず映画女優としてデビューさせ、アイドル的な人気を得るという、逆パターンのアイドル映画を確立させたのが、角川春樹プロデューサーである。

その先駆けになったのが、角川春樹事務所所属の薬師丸ひろ子で、『野性の証明』(1978)で高倉健の娘を演じてブレイクした彼女を、『ねらわれた学園』(1981)、『セーラー服と機関銃』(1981)。『探偵物語』(1983)などでアイドル的大女優として開花させることに成功。1982年には「角川・東映大型女優」のコンテストで渡辺典子、原田知世が発掘された。それぞれ『伊賀忍法帖』(1982)、『時をかける少女』(1983)で映画デビューした彼女たちは、薬師丸とともに「角川三人娘」と呼ばれてアイドル女優のトップに君臨した。

アイドルの自分に別れを告げる瞬間


 その角川からの独立を重ね合わせて、『Wの悲劇』を観ると、改めて一人の女優のターニングポイントを実感できる。

主人公・三田静香は劇団の研究生で、劇団の公演「Wの悲劇」で小さな役をつかむ。劇団の看板女優で同作の主演を務める羽鳥翔が大阪公演の際に、愛人を腹上死させてしまったことで、静香は彼女の身代わりとなり、その代償として「Wの悲劇」で重要な役を与えられるのだ。演出家や共演陣の反対も、大女優・翔の提言には逆らえない。

映画史に残る名作『イヴの総て』などを彷彿とさせる、スキャンダルを逆手にとった女優の「タナボタ大逆転」物語。ピュアな素顔と、突然の劇的な運命に巻き込まれる苦悩、さらに秘められていた野心のめばえなど、静香の複雑な心境変化を演じることは、薬師丸にとっても相当の覚悟が必要だっただろう。演じるうえでの俳優としての不安と恐怖。それが静香という役の体験と、ピタリと重なっているのは、『Wの悲劇』を観れば一目瞭然だ。

スキャンダルを乗り越えて、初めて大役を演じきったとき、本来なら大女優の羽鳥翔が一人で立つはずの最後のカーテンコールを、静香が「今夜だけよ」と譲られる。満席の場内からの大喝采を受け、精一杯、両手を広げて応える静香の、何とも言えない万感の表情は、薬師丸ひろ子がこの難役をやりとげた喜びとシンクロし、心が震えずにはいられない。

その後のシーンで、静香は劇場の裏口から階段を下りてくるのだが、この階段は旧・東京宝塚劇場の裏階段である(チケット売り場は帝国劇場が撮影で使われている)。宝塚劇場といえば、大階段を男役と娘役のトップが下りてくる演出が有名で、まさに静香の大女優への「階段」にうってつけの撮影場所だった。

世良公則が演じる不動産屋、森口との恋も描かれるこの『Wの悲劇』は、舞台とは別にもうひとつのカーテンコールも用意する。舞台では感極まっていた静香だが、そのもうひとつの一礼での表情は、なんとも複雑。さまざまな感情が交錯するのが伝わってきて、こちらのシーンも感慨深い。この『Wの悲劇』を終えて独立した薬師丸ひろ子が、自分をここまでの女優に育て上げてくれた角川春樹への思いが詰まっている……と読み取ることもできる。

大女優・羽鳥翔役の名演が現在でも語り草になっている三田佳子とともに、薬師丸ひろ子は『Wの悲劇』で多くの映画賞を受賞、またはノミネートの栄誉を受けた。いま改めて観直すと、アイドル女優に自ら別れを告げようとする彼女の強烈な覚悟が全編から感じられることだろう。


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価格 ¥1,800+税

発売元・販売元 株式会社KADOKAWA


(C) KADOKAWA 1984


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