無謀なタイトル引用は逆効果も
さらに極端な例として紹介したいのが、2016年の作品『バース・オブ・ネイション(原題)』。これは、1831年、アメリカのバージニア州で起こった奴隷の反乱を描いた映画で、タイトルの基になっているのは、映画史をさかのぼること100年(!)、1915年のサイレント映画の名作『國民の創生』だ。原題は『The Birth of Nation』とまったく同じ。南北戦争とその後を完全に「白人目線」で描いた『國民の創生』に対して半旗を翻すようかのように、これこそが「国民の創生だ!」と黒人側の視点から見つめたのが2016年の作品。タイトルにはもちろん強烈な皮肉が込められている。
『バース・オブ・ネイション』はそのテーマから、一時、アカデミー賞の有力候補とささやかれたが、監督のスキャンダル(強姦で告訴されたうえ、訴えた相手が自殺していた)が発覚したりして、アカデミー賞からは完全無視をくらってしまった。それを受けて日本でも劇場公開の予定がキャンセルされ、こちらも「皮肉な」結果に……。
最後にもうひとつ、『007 ロシアより愛をこめて』に触発されてタイトルがつけられた、ジョン・トラボルタ主演のアクション映画『パリより愛をこめて』という作品もあった。原題が『From Russia with Love』と『From Paris with Love』なので、作り手側の意気込みがあからさま。しかし『パリ~』は批評も興収もイマイチという残念な結果で終了。名作を意識したタイトルでなければ、もう少し普通に評価されていた可能性もある。タイトル引用は、危険な賭けなのだ。
とはいえ、『パリより愛をこめて』を観た人が『ロシア~』を未見だったら、興味がわくのは確実。映画の世界を広げる意味で、タイトル引用の効果はゼロではないだろう。
映画『Wの悲劇』を観て、夏樹静子の小説が読みたくなり、さらにエラリー・クイーンの本にも手を伸ばし、ではエラリー・クイーンの作品を映画化した作品は何かあるか……と関心を高める(実際に意外な映画があるので!)。タイトルつながりをたどることで、新たな映画体験が訪れるかもしれない。
文: 斉藤博昭
1997年にフリーとなり、映画誌、劇場パンフレット、映画サイトなどさまざまな媒体に映画レビュー、インタビュー記事を寄稿。Yahoo!ニュースでコラムを随時更新中。スターチャンネルの番組「GO!シアター」では最新公開作品を紹介。
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