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『十三人の刺客』オリジナルへのリスペクトだけでは終わらない!映画史に残る傑作時代劇を現代に甦らせた三池崇史の剛腕

『十三人の刺客』オリジナルへのリスペクトだけでは終わらない!映画史に残る傑作時代劇を現代に甦らせた三池崇史の剛腕

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オリジナルへのリスペクトでは終わらない、リメイクならではの果敢な挑戦



 三池崇史版『十三人の刺客』は相当オリジナルに忠実だと書いたが、もちろんただの焼き直しではない。三池監督が得意とする残虐描写が盛り込まれ、バイオレンス度が格段にアップ。またオリジナルの“殺伐としたリアル”を踏襲するのではなく、時代劇や殺陣の魅力を現代のスクリーンに焼き付けようという気概が感じられる。


 特に印象に残るのが、島田新左衛門の腹心の友・倉永左平太を演じた松方弘樹。松方弘樹といえば『仁義なき戦い』(1973)など東映ヤクザ映画のイメージが強いが、往年の時代劇スター近衛十四郎を父に持ち、数多くの時代劇にも主演。父親譲りの殺陣の達人で、テレビドラマ「遠山の金さん」でもメリハリのあるパワフルかつ美しい立ち回りを披露していた。


 三池崇史監督は『十三人の刺客』を監督するにあたり、日本映画の伝統である時代劇のノウハウが伝承されておらず、現代に本格時代劇を作る難しさについて語っている。それだけに時代劇が骨の髄にまで染みついた大ベテラン、松方弘樹の参加は心強かっただろう。鬼神のごとく斬りまくりながら佐平太が死んでいくシーンでは、松方があまりにも強すぎて勝てる相手などいないということで、誰かに倒されるのではなく体力の限界に達して絶命するという展開が用意された。


 オリジナルでは無惨だった九十郎の最期も変更された。リメイク版では伊原剛志が九十郎を演じ、300人を相手にするのに刀一本では足りないと、地面に何本も日本刀を突き立て、敵を斬っては刀を捨て、別の刀を抜いてまた違う敵を斬る。室町将軍・足利義輝の剣豪伝説を地で行く獅子奮迅の果てに壮絶死するのである。


 オリジナル版が、時代劇黄金期のヒロイズムを否定した“アンチ王道”だったなら、三池版は時代劇の醍醐味を現代に蘇らせた“温故知新”。オリジナルへのリスペクトは忘れることなく、カッコいいチャンバラの魅力を迫力大増量の現代バージョンとして蘇らせた功績は大きく評価されるべきだろう。


 もうひとつ、三池版が打ち出した強烈キャラとして、刺客たちが首を狙う明石藩主・松平斉韶がいる。オリジナル版では真性の“バカ殿”として描かれていたが、三池監督はジャニーズアイドルSMAPのメンバーだった稲垣吾郎を起用。端整かつ涼やかな顔で残虐行為を繰り返し、インテリらしいニヒリズムも漂わせる複雑怪奇な斉韶像を創り上げた。


 リメイクはオリジナルを超えないというのが定説だが、こと松平斉韶に関してはリメイク版『十三人の刺客』の方がインパクトで勝る。涼やかに他人を殺し、涼やかに立小便をし、涼やかに毒を吐き散らす斉韶=ゴローちゃんの怪演だけでも絶対に目撃しておく価値がある。三池崇史のリメイク版は、21世紀の時代劇はどうあるべきかを追求した、オリジナルとはまた別種の傑作なのである。



文: 村山章

1971年生まれ。雑誌、新聞、映画サイトなどに記事を執筆。配信系作品のレビューサイト「ShortCuts」代表。




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