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『ローガン・ラッキー』名曲「カントリー・ロード」が誕生した理由と、ソダーバーグ式犯罪映画術の意外な関係
映画のペースを決定する、おおらかな田舎の風土
ウェストバージニアの人たちの愛らしさは、そんなテキトーな歌詞にも関わらず「カントリー・ロード」をこよなく愛し、州の歌にすら選んでしまったこと。些細さなことを気にするよりも「まるで天国だよ!」と地元について歌ってくれたジョン・デンバーへの感謝も惜しまない。劇中のジミーも、ジョン・デンバーがウェストバージニアを訪れたことがない事実を知ってるが、てんで気にしてない。なんというおおらかさだろうか。
『ローガン・ラッキー』という映画もまた、舞台となるウェストバージニアやノースカロライナといった“田舎”のおおらかさの上に成り立っていると言える。同じケイパー物(強盗や強奪を描いた犯罪ジャンル)ということでソダーバーグ監督の『オーシャンズ11』シリーズ(2001~2007)と比較されることも多いが、両者は似ているようで水と油ほども違う。『オーシャンズ11』ではプロの犯罪チームの華麗な犯罪計画がメインだが、『ローガン・ラッキー』のジミーとクライドのローガン兄弟は犯罪のド素人。必死に考えたプランも穴だらけで、観客が「おい、しっかりしろよ」と肩を叩きたくなってしまうほどだ。
ところが予定通りというべきか意外にもというべきか、兄弟の計画はするするっと順調に進んでいく。絶対に怪しいのに警備員が通してくれたり、目撃者が警察に訴えてもスルーされてしまったり。田舎ののんびりした人々が、小さなことはのほほんとやり過ごしてくれるおかげで大抵のピンチが回避できてしまうのだ。土地に根差した“おおらかさ”ゆえにおぼつかない素人犯罪がうまくいってしまう展開は、この映画の微笑ましさにも繋がっている。
『ローガン・ラッキー』© 2017 Incarcerated Industries Inc. All Rights Reserved.
監督のソダーバーグも「『ローガン・ラッキー』と『オーシャンズ11』は従兄弟のような関係」と言いながら、演出や編集のスタイルは大きく変えている。もっとも顕著なのがテンポの違いで、人によっては『ローガン・ラッキー』はスロー過ぎる、と思うかも知れない。しかしそのスローさやおおらかさがキャラクターの性格や舞台設定と絶妙にリンクして、『オーシャンズ11』とは真逆の「スマートでない語り口」が作品の魅力になっている。『ローガン・ラッキー』は、ハリウッド屈指のインテリ監督として扱われがちなソダーバーグが得意の“ケイパー物”で新境地を拓いた快作なのである。
1971年生まれ。雑誌、新聞、映画サイトなどに記事を執筆。配信系作品のレビューサイト「ShortCuts」代表。
映画公式サイト: http://www.logan-lucky.jp/
提供:東北新社
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント/STAR CHANNEL MOVIES
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