2017.12.23
時代の空気を伝えてくれる音楽の力
映画が時代を表現する際に、非常にありがたい役割を果たすのが音楽。特に50~60年代のオールディーズの名曲を大量投入して効果を上げたのが、ジョージ・ルーカス監督が自らの青春時代をモチーフにした『 アメリカン・グラフィティ』(1973)。時代設定である1962年にラジオでかかっていた曲ということで、前述の「ジョニー・B・グッド」を含む40曲以上のヒットソングが映画を彩った。
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』でも舞台となる1985年と1955年の違いを、音楽を使って分かりやすく伝えている。ギター少年であるマーティは80年代に大ヒットしたヴァン・ヘイレンのようなハードロックバンドに夢中で、冒頭ではドクの家にある巨大スピーカーとアンプで轟音ギターをかき鳴らそうとする。
若き日の父親ジョージを脅すためにウォークマンで爆音を聴かせる曲も、ヴァン・ヘイレンのアルバム未収録曲「Out The Window」だ。劇中で映るカセットテープのラベルには「VAN HALEN」の文字の上に小さく「EDWARD」と書かれている。これはバンドの許諾が取れず、リーダーのエディ・ヴァン・ヘイレンが個人的に許可してくれたかららしい。
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(C) 1985 Universal Studios. All Rights Reserved.
一方で1955年はまだロックンロールの勃興期。マーティが1955年に迷い込んで耳にするのは男性コーラスグループ、フォア・エーセスが歌う「 Mr.サンドマン」。1954年にコーデッツなど様々なグループに録音されて大ヒットしたポップナンバーでロックの激しさとは程遠い。マーティが参加したパーティバンドが演奏する「 アース・エンジェル」も1954年にヒットした甘~いバラード曲。1955年12月という設定の中、田舎の高校のパーティーで流れるには時代考証的にもぴったりの選曲なのだ。
そこにマーティが“懐かしのオールディ”と言いつつ、音楽史的には3年後の1958年にリリースされる「ジョニー・B・グッド」を演奏する。それを電話越しに聴いたチャック・ベリーがロックのビートの洗礼を受けて、後に「ジョニー・B・グッド」をヒットさせることが示唆される展開は、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の数あるタイムパラドックスネタでも飛び切り愉快な瞬間だ。