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『ハイドリヒを撃て! 「ナチの野獣」暗殺作戦』皮肉にも傑作揃いのナチス・ドイツの闇を探究する異色サスペンス

『ハイドリヒを撃て! 「ナチの野獣」暗殺作戦』皮肉にも傑作揃いのナチス・ドイツの闇を探究する異色サスペンス

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「ワルキューレ作戦」の由来となった大作曲家ワーグナーとの関係



 さて、この暗殺計画だが、実は説明が結構ややこしい。もともと国内のクーデターなどを防ぐために、ヒトラー自身が反乱鎮圧計画として考案した「ワルキューレ作戦」という有事対策があったのだが、シュタウフェンベルク大佐はこのシステムを逆利用することを思いついたのである。


 つまり権力の中枢にいる要人たちを仲間に引き入れてから、「ワルキューレ作戦」を自分たちに都合のいい形で発動させ、その混乱の中で独裁者ヒトラーを暗殺してしまおうというプランだ。もちろんこれは、ドイツ軍内の反ヒトラー感情が高まっているからこそ可能な作戦である。


そして1944年7月20日、いよいよ決行の時を迎えたシュタウフェンベルク大佐は、自ら小型爆弾を仕込んだブリーフケースを手にしてヒトラーに接近する。爆弾の作動から脱出まで、暗殺遂行にはわずか10分ほどのチャンスしかない。果たして作戦は成功するのか――。


 この過程がハラハラドキドキの実録サスペンス・タッチで描かれていくのだが、しかし歴史的事実が示すように、作戦は失敗に終わるのである。ヒトラーはこの作戦の約9か月後、敗戦を前にした1945年4月30日、恋人(死の直前に結婚)エヴァ・ブラウンと共に地下壕で自決したのは周知の通り。


 結局、シュタウフェンベルク大佐首謀の暗殺計画に関わった者たちは軒並み処刑されるわけだが、勘違いや仲間の裏切りなど複雑に錯綜する作戦の推移を鋭く描出し、やがて無念の挫折、悲壮感に至るまでの映画のテンションは圧巻。そしてこの「ワルキューレ作戦」(「7月20日事件」とも呼ばれる)は、実に総計40回以上も企てられたとされる歴代ヒトラー暗殺計画の中で、最大の規模にして最後のものとなったのである。


 ちなみに「ワルキューレ作戦」というネーミングの由来は、ヒトラーがこよなく愛した大作曲家、リヒャルト・ワーグナー(1813年生~1883年没)の勇猛な代表曲「ワルキューレの騎行」から。『ワルキューレ』では、シュタウフェンベルク大佐が自宅でこの曲のレコードを聴いて、作戦を思いつくシーンが描かれている。


 「ワルキューレの騎行」といえば、映画ファンには、ヴェトナム戦争を描いた破格の大作『地獄の黙示録』(1979年/監督:フランシス・フォード・コッポラ)でヘリコプター部隊が空爆するシーンに流れる曲として最もおなじみだろう。


 しかしワーグナーの曲は、熱狂的なワグネリアン(ワーグナー・ファン)であったヒトラーがナチスのプロパガンダ(政治宣伝)フィルムによく使用していた事実があって、コッポラも『地獄の黙示録』で泥沼の戦争にのめり込むアメリカの狂気を描く際に、そのイメージを意識していたはずだ。



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